こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

依頼人

otello2012-05-18

依頼人

オススメ度 ★★★
監督 ソン・ヨンソン
出演 ハ・ジョンウ/パク・ヒスン/チャン・ヒョク/ソン・ドンイル
ナンバー 114
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

残された血痕、消えた死体、もみ消された記録。容疑者の自白もなく、あるのは状況証拠ばかり。狡猾な犯人の罠か、警察の思いこみ捜査か、検察の勇み足か。映画はひとつの“殺人事件”をめぐる、検察と弁護側の対決を軸に、正義とは何かを問う。そこで究められるは事実を積み上げた上で到達できる真実のはずなのに、検事は“推定”で補おうとし、弁護士はその根拠の不確定部分を突く。法の裁きを受けさせるのが検察ならば、たとえ限りなくクロに近い容疑者でもその人権を守るのが弁護士。ふたつの相半する“正義”が虚々実々の駆け引きを繰り広げていく過程がスリリングだ。

深夜帰宅したハンは血まみれの室内で警察に逮捕される。容疑は妻の殺害、ハンは腕利きのカンに弁護を依頼、カンは法廷で研修生時代の同期生で検事となったアンと対峙する。

ハンの目はどこか狂気を湛えていて“こいつならやりかねない”雰囲気を纏っているのだが、一方で気が弱そうにも見える。なによりカンに対して心を開かず、カンは断片情報を頼りに反証を上げていくしかない。そこに、ハンを追う元刑事や義母、聴覚障害の少年親子などが絡んでくるが、事件の全容は一向に見えてこない。煮え切らないモヤモヤとした空気が映像を支配し、ハン・カン・アンの3人の微妙なパワーバランスを崩す決定打となるような証拠・証人がいずれからも出ず審理は進んでいく。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

有能なカンはハンの犯行と気づいているに違いない。しかし、弁護士として依頼人が否認している限り、無罪を勝ち取るべく最大限の努力をしなければならない。だが、カメラはそんなカンの良心の葛藤には一切触れず職務への忠実な姿勢のみを追っていく。そしてカンはトリックを仕掛け、一人を除いて法廷にいた全員が引っかかるという結果を得て検察の主張を崩していく。疑わしきは被告人の利益に、すっきりと腑に落ちない判決にもかかわらず、法を順守するしかない裁判長の判断は、司法の精神を象徴していた。ただ、最後のどんでん返しは必要だったのだろうか。。。

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