こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

シーソー

otello2012-05-23

シーソー seesaw

オススメ度 ★★*
監督 完山京洪
出演 村上真希/SoRA/岡慶悟
ナンバー 121
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

穴のあいた靴下を履き続ける男と捨てろと言う女。貯金したい男と気楽に生きたい女。犬を拾ってきた男と絶対に許さない女。同棲して2年、平凡だけど幸せな毎日を過ごしてきたふたりに、結婚が現実味を帯びてくると急に考え方の違いが顕在化してくる。愛していなわけではない、でも己の理想とは違う。映画はそんな適齢期に達したカップルに芽生えた些細な違和感を繊細なタッチでスケッチする。

真琴と伸司は小さな部屋で暮らしているが、親友の婚約を機に伸司は真琴に結婚しようと提案する。このままがいいと真琴は断るが、その日から彼女に妊娠の兆候が出始める。

役者志望だった伸司は定職について早朝から勤めに出る。一方の真琴は比較的自由な日本語教師。ふたりの将来のために夢をあきらめた伸司と、豊かではないが苦労もない生活に満足している真琴。伸司は未来を見ているのに真琴は今しか興味がない。結婚とはお互いの価値観の溝を埋め同じ方向に向かって進む作業なのに、真琴は歩み寄ろうとはしない。20世紀のころは女の方が結婚に対して真剣だったのに、いまやむしろ男の方が積極的。自分だけではなく、相手や子供の人生にまで責任を負わなければならないのに二の足を踏んでいるのだろう。妊娠を喜べない真琴の苦悩は21世紀の女性の結婚観を象徴していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

心にしこりを残しつつ、伸司は犬を保健所に連れて行く。突然の悲劇、もっと話したかった、もっと愛したかった、ずっと一緒にいたかった。そうした思いが真琴の脳裏に溢れ、捨てたはずの穴あき靴下が見つかるなど伸司の気配が部屋に残り、何気ない言葉に込められた優しさとさりげない日常が、かけがえのない思い出になっていく。そして、伸司にとって真琴だけが残された希望だったことを彼女は知る。悲しくて仕方ないのに楽しかった記憶がふとよみがえる、泣きながら思い出し笑いをする真琴の表情に、失って初めて大切なものに気づくという皮肉と胸を締め付けるような喪失感が凝縮されていた。

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