こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

外事警察 その男に騙されるな

otello2012-06-05

外事警察 その男に騙されるな

オススメ度 ★★★*
監督 堀切園健太郎
出演 渡部篤郎/キム・ガンウ/真木よう子/尾野真千子/田中泯/イム・ヒョンジュン
ナンバー 137
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

相手を出し抜き、機先を制し、怒りをコントロールして目的を達しようとする男が直面したのは核爆弾の悪夢。欺瞞と偽装、嘘と裏切り、決して表には漏れ出てこない国家間の駆け引きは、正義や良心などの甘い理想とは程遠いどす黒い世界。物語は日本の防諜機関外事警察工作員朝鮮半島を巻き込んだ壮大なテロを防ごうとする姿を描く。きれいごとでは国の安全保障は成り立たない、だが直接手を下すエージェントである主人公も全く信用ならない。「その男に騙されるな」とタイトルに謳っているのにすっかり騙されてしまった。

日本に家族を残し北朝鮮に渡った後に脱北した核物理学者を無事帰国させた公安の住本は、新たな核テロの情報を入手、朝鮮人貿易商を監視対象にする。貿易商の日本人妻・果織を脅し協力者に仕立て上げるが、貿易商は韓国諜報機関・NIS潜入捜査官に射殺される。

格闘や銃撃、カーチェイスなどのアクションに頼らず、張り込み尾行盗撮に加えあくまで人と人の関係から罠を仕掛け内偵を進める住本。映画は彼にハンディカメラを寄り添わせ、現場の空気と微妙に揺れ動く感情をリアルに伝える。息詰まる緊迫感は住本の人間性に迫りつつ、彼の仕事の薄汚れた実体をも明るみにしていく。本性はまさに魔物、他人の信頼を食い物にしていく彼の手口はヤクザ以上の狡猾さで、むしろ嫌悪感を覚えるほど。そんな男を渡部篤郎がクールに演じ切る。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

住本は核物理学者と接触したときに自らも灯油を浴びて誠意を示そうとするが、それは彼一流の命がけのギャンブルに過ぎないことが後々明らかになっていく。しかも書類の偽造、利害が対立するNISとの協力など、命がけの“諜報ゲーム”に勝つためには何でもあり。住本自身、大義のためには個人の尊厳など守るに値しないと思っている。さらに核テロ計画そのものが国家規模の陰謀で、住本も駒の一つに過ぎないという真実。己の役割を淡々とこなすダーティヒーローの背中には、孤独な男の哀愁とニヒリズムが漂っていた。

↓公式サイト↓