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The Lady アウンサンスーチー ひき裂かれた愛

otello2012-06-09

The Lady アウンサンスーチー ひき裂かれた愛

オススメ度 ★★★*
監督 リュック・ベッソン
出演 ミシェル・ヨー/デヴィッド・シューリス
ナンバー 141
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

夫と息子たちが代理で出席したノーベル平和賞授賞式の中継をラジオで聞くヒロインは、会場で奏でられる弦楽器による「カノン」に合わせて、自らも自宅に置かれたピアノの鍵盤に指を滑らせる。ノルウェービルマ、遠く離れていても心はひとつ、彼女の闘いは家族の闘いでもあることを印象付け、自宅軟禁という外部から遮断された孤独な状況ではお互いへの思いが唯一のよりどころであると訴える象徴的なシーンだ。物語は、ビルマ民主化運動の指導者が軍事政権に弾圧されながらも、民衆を救おうとする姿が描かれる。その陰で、夫のサポートと息子たちの気持ちがどれほど支えになっていたか、彼女の闘争の知られざる愛の一面にスポットを当てる。

ビルマ独立の父・アウンサン将軍の娘・スーチーは英国で学者のマイケルと結婚し2児をもうけていたが、母の見舞いにラングーンに戻ったのを機に民主化運動のリーダーに祭り上げられる。彼女の演説に群衆は熱狂、少数民族が住む山岳地帯の遊説でも好意的に迎えられる。

危機感を覚えた軍事政権側は支持者を根こそぎ検挙し、スーチーを自宅軟禁にする。銃口を向ける兵士に対し一歩もひるまず強い視線を返すスーチー、この場面に暴力には屈しない彼女の固い意志が凝縮されていた。ビルマ民主化は父の遺志であり、末期ガンに侵された夫の最期の望みであり、次代を担う息子たちへの希望でもある。理想に向かって決して妥協しないヒロインを、外見を似せるだけでなく、ビルマ語を操ってよりリアルに再現するミシェル・ヨーの抑制の効いた演技が作品を支えている。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

軍事政権は巧みに一家の仲を引き裂きスーチーに祖国か家族かの二者択一を迫るが、マイケルの死に立ち会えなかった彼女は軍政打倒の誓いを新たにする。彼女は現在も理想を追い求めている。しかし、もはやスーチーも60代後半、生きているうちに真の勝利を手にできるのだろうか。ビルマ民主化の加速を祈るばかりだ。

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