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映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

シグナル〜月曜日のルカ〜

otello2012-06-12

シグナル〜月曜日のルカ〜

オススメ度 ★★★
監督 谷口正晃
出演 三根梓/西島隆弘/白石隼也/おかやまはじめ/宮田早苗/梅沢昌代/緑友利恵/趣里/高良健吾/井上順/宇津井健
ナンバー 143
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

映写機にフィルムを通すときにわずかなたるみを持たせ、上映が始まるとピントを微調整する。フィルムに触る時は手を洗い、丁寧に接合してリールに巻き付ける。いまや絶滅寸前の名画座、その裏舞台となる映写室のみならず、ロビーに貼られた手書きの注意書や古い映画のポスター、低い背もたれの椅子やスクリーン手前のステージなどのディテールが郷愁を誘う。物語は地方都市の古い名画座に住み込む映写技師とアルバイト学生の交流の中で、ヒロインの隠された秘密を少しずつ探っていく。何に脅えているのか、誰から逃げているのか。彼女の謎が明らかになっていく過程がミステリアスに描かれる。

名画座の映写技師助手に応募した恵介は、採用の条件として技師長のルカの身の上について一切の質問を禁じられる。それでも徐々に彼女と打ち解けていくが、月曜日になると極度に落ち込む彼女の代わりに映写を任されて大きなミスをしてしまう。

人懐こい性格の恵介は自らの恵まれなかった少年時代の話をしてルカの胸襟を開いていくと同時に、彼女に起きた3年前の事件を調べる。ルカが負った心の傷と胸の傷、その疼きは現在も継続中でいつ傷口から血が流れてもおかしくない状態。追いかけてくる男の影とねじれた関係、そして死。頼れる者がいない孤独と自分を罰するかのような隠棲生活の中で、恵介のおかげで表情が消えていたルカに笑顔が戻っていくシーンがまばゆい。憂いを秘めたルカの横顔に光が当たり、幻想的な美しさを放っていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがてすべてを知った恵介は迫りくるストーカーからルカを守ろうと体を張る。大した緊迫感もなくあっさりストーカーを撃退するのは、あくまでルカと恵介の“新たな一歩”がこの作品のテーマだからだろう。彼女と祖父の大切な思い出である屋外上映を実現させることで、恵介はルカから「大好き」という言葉を引き出す。それは“デジタル化でもう映写技師など必要ない”と口にするルカにとって、過去の清算であるとともに、祖父の愛からの卒業でもあるのだ。

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