こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

籠の中の乙女

otello2012-06-23

籠の中の乙女 KYNODONTAS

オススメ度 ★★★*
監督 ヨルゴス・ランティモス
出演 クリストス・ステルギオグル/ミシェル・ヴァレイ/アンゲリキ・パプーリァ/マリア・ツォニ/クリストス・パサリス/アナ・カレジドゥ
ナンバー 154
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

高い塀に囲まれた広大な屋敷の日常は、穏やかなのにどこか異様さを漂わせている。清潔で無機質な家の中、意味を置き換えられた単語、名前のない若者たち。外界との接触が一切ない彼らは、時折上空を横切る飛行機以外に塀の外に何があるのか情報を得る術はない。映画は説明的なセリフを廃し、ただ3兄姉妹の状況だけを投げ出して陰鬱で邪悪なイメージを植え付けていく。他方、自己完結した調和のとれた空間にいるという歪んだ幸福感をも味あわせてくれる。そして地に足のつかない不安定な浮遊感に、いつしかこのシンプルな生活は美しいとマインドコントロールされた気分になっていく。「ヴィレッジ」に似た構図だが、展開はよりミステリアス、映像はより洗練されている。

町はずれの邸宅に住む5人家族は、パパがクルマで外出するほかはずっと敷地内に留まっている。ある日、長男の性欲処理のために呼んだ女が、長女にカチューシャをあげる代わりにある取引を持ちかけたのがきっかけで、平和はほころび始める。

息子と女は向かい合って挿入するのみ、パパとママはふたりともヘッドフォンで音楽を聞きながら交合し、長女はクンニに抵抗はない。セックスをめぐる一家のおおらかな習性が、彼らの奇妙な価値観を物語る。それは決してタブーではなく、むしろ食べて寝るのと同列の行為なのだ。一方、向上心や闘争心、愛や恐怖などの人間的な感情を芽生えさせるようなビデオは禁止。境界線から出ると忌わしく恐ろしいものが待ち受けていると刷りこんでパパは守護者たる地位を保ち、優しい暴君であり続ける。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

結局、父親は何をしたかったのか。妻子を愛しているが故の行為であるのは理解できる。だが、こんな嘘で固めた暮らしはいつか破綻するのは目に見えている。初めて見た外の世界に信じていたことがすべて足元から崩れるが、無闇に不安に駆られる必要はないと子供たちは気づくだろう。彼らの、驚き言葉を失う姿を想像させ、われわれ人間にはまだまだ知らない事象がたくさんある現実をこの作品は暗喩しているのだ。

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