こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ブラック・ブレッド

otello2012-06-27

ブラック・ブレッド PA NEGRE

オススメ度 ★★★
監督 アウグスティ・ビリャロンガ
出演 フランセスク・コロメール/マリナ・コマス/ノラ・ナバス/ロジェール・カサマジョール/リュイサ・カステル/マルセ・アラーナガ
ナンバー 158
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

理想を熱く語り自由の素晴らしさを教えてくれた父。少年にとってはいつも愛情あふれる存在だったのに、いつのまにか警察に追われる犯罪者になっている。しかも、逃亡したはずなのに屋根裏部屋に隠れていた・・・。映画は、内戦終結後のスペインを舞台に、勝者と敗者の間で交わされた秘密と嘘の薄皮を一枚ずつはがしていく。“歴史は勝者によって作られ、敗者には価値はない”と言う小学校教師の言葉に象徴されるように、内戦で左派に与した人々は生き残るために裏切りと欺瞞を受けいれなければならない。そんな現実が少年の目を通して描かれる。

森で荷馬車が襲われ父子2人が崖から落とされる。現場に駆け付けたアンドレウは、子供が事切れる前に「ピトルリウア」と口にするのを聞く。警察はアンドレウの父・ファリオルに容疑をかけ、ファリオルはフランスに逃げると言って姿を消す。

アンドレウは祖母の家に預けられ、そこでヌリアという少女と出合う。内戦で親と左手を失った彼女は哀しみを乗り越えるために大人にならざるを得なかったのか、アンドレウよりずっと世知に通じ、世の中の裏側を見せる。そしてアンドレウも裸の青年や洞窟に住む怪物・ピトルリウアといった村の禁忌に近付いていく。ただ両親に愛され、家族と狭い町が世界のすべてだったアンドレウは、ファリオルが“負け組”だったと知り、自力でピトルリウアを探そうとする。その過程で無邪気だった彼の瞳が次第に陰を帯びて冷たくなり、心が死んでいく。少年の通過儀礼と言うにはあまりにも残酷な現実、それに翻弄される彼の感情がリアルに再現されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて、殺された男の妻からファリオルの真実を聞かされる。誇り高い男だった父は、実は過去も現在も汚れ仕事に手を染めている。もはや誰も信じられなくなったアンドレウは、学校に面会に来た母すら追い返し、村での人生を忘れようとする。それでも、ファリオルが命がけでアンドレウの将来を守ろうとしていた、その父の息子に対する愛が本物だったことだけは救いだった。

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