こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

苦役列車

otello2012-06-30

苦役列車

オススメ度 ★★★
監督 山下敦弘
出演 森山未來/高良健吾/前田敦子
ナンバー 162
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

世の中の全てがきらめいていて、誰もがイケイケだった時代、あえて「生きる苦しみ」を味わおうとする若者。世間に背を向けた暮らしは貧しく惨めなのに、 “堕ちるところまで堕ちてやろう”という自虐的な意識を持っているかのよう。もちろん不幸な家庭の事情もあったが、若さゆえ解決法も知らないまま、ただ流され周囲に甘えながら過ごしている。映画はそんな主人公の生活にカメラを向け、向上心など捨てればどん底も悲劇ではなく、もしやこれが人間本来の姿なのではと思わせてくれる。夢や希望など無辜な人々を効率良く働かせるための幻想で、絶望の中にこそ人生の真実があるのだ。

中卒日雇い作業員の貫多は職場で同年代の専門学校生・正二と知り合い、意気投合。ある日、貫多が思いを寄せている古本屋のバイト女子大生・康子に、正二に声をかけてもらい、貫多と康子は読書の趣味を通じて友だちになる。

正二は初めてできた友人、昼食が弁当から定食になって大喜びし、康子と友だちになっただけでやらせてもらえると勘違いする貫多。それまでの鬱々とした日々に急に光が差し込んでくる。ところが、やっと人並みの青春が送れそうになると、貫多はどこか居心地が悪そうで、せっかく築いた人間関係を自から壊してしまう。悪いやつではないのは分かっているがもうこんな奴とは付き合いきれないといった正二の貫多への気持ちが、彼が愛飲するSaSuKeの微妙なまずさに象徴されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

結局正二とは疎遠になり康子も姿を消す。その原因が己の無神経さにあるのはわかっている貫多は一時でも友達になってくれたことに感謝の言葉を贈り、やっぱり怠惰で退屈な日常に戻っていく。“負け犬”状態に浸りきっているのが普通で、むしろそこが自分の居場所と感じる貫多の生き方には、歌手を目指してオーディション番組に出るかつての同僚のオッサンよりもある種の潔さを覚えてしまった。だからこそ原稿用紙になど向かってほしくはなかったが。。。

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