こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

グスコーブドリの伝記

otello2012-07-09

グスコーブドリの伝記

オススメ度 ★★*
監督 杉井ギサブロー
出演 小栗旬/忽那汐里/佐々木蔵之介/林家正蔵/林隆三/草刈民代
ナンバー 168
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

つい2〜3年前まで世界中で喧伝された二酸化炭素による地球温暖化論も、大震災以降日本ではほとんど口にする者はいなくなった。40年後には北極の氷がすべて解けて海面が上昇するなどの極論まで声高に叫ばれていたが、逆に今年になって「太陽活動の低下による寒冷化が懸念」との報道もされている。主人公は寒い夏に苦しむ住民を救うために、火山ガスに含まれる二酸化炭素を利用して理想郷を温暖化しようとするが、二酸化炭素悪玉論を振りかざしその削減こそ“正義”と世論を誤誘導していた人々はこの作品をどう見るのか。きっと彼らは反原発運動の先頭に立っているんだろうな、今は。古舘伊知郎みたいに。。。

森の奥で木こりの息子に生まれたブドリは両親・妹と仲良く暮らしていた。ある年から夏の異常低温が続き、父、母がいなくなり、妹までも連れ去られてしまう。ひとりになったブドリは家を出ててぐす工場や農家で働き始める。

ブドリをはじめキャラクターはすべてネコの姿で宮沢賢治ファンタジーの世界観を具体化する。それは緑濃い森や田畑などの農村よりも、飛行船がビルの谷間を行き交い巨大計算機が火山活動を監視する“昭和初期のポストモダン”風の都市の風景に深く反映されている。科学技術が生活を脅かさずに共存する空間、テクノロジーに支えられた幸せな暮らしは賢治が夢見た未来社会だったはず。柔らかなタッチのなかにどこか死の影をまとった映像は、飢えが珍しくなかった時代の空気を色濃く残していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後ブドリは火山研究者として実績を積み、溶岩噴出から町を守ったりする。しかし、またまた襲い掛かる冷夏と不作に、火山噴火による温室効果で農業に適した気候を取り戻すアイデア提示、実行に移す。本来、ここがクライマックスなのだが、ブドリの自己犠牲を大げさに讃えて感情を刺激したりはせず、「ほめられもせず、苦にもされず」という彼の生き方=死に方を通す原作の意図を尊重したところに好感が持てた。

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