こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

フェイシング・アリ

otello2012-07-12

フェイシング・アリ FACING ALI

オススメ度 ★★★*
監督 ピート・マコーマック
出演 モハメド・アリ/ジョージ・フォアマン/ジョー・フレージャー/ラリー・ホームズ/レオン・スピンクス
ナンバー 170
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

スポーツ界のスーパースターというだけではなく、黒人公民権運動の先頭に立ち、反ベトナム戦争で米国を敵に回して闘った偉大なファイター・モハメド・アリ。その言動がマスコミを騒がせたアリに対し、対戦相手は勝っても負けてもアリの引き立て役に過ぎず、決してアリより輝やいたりはしない。映画は、そんな、かつてアリとグローブを交えたボクサーたちに、彼との試合がその後の人生にどういう影響をもたらしたかを問い、パンチの応酬の後に肉体に残ったアリの記憶に迫る。ある者は時代のヒーローと同じリングに立てたことを誇りにし、ある者は彼の毒舌に侮辱された怒りを忘れていない。

まだ売り出し中だったアリに破れたクーパー、アリに黒星を付けたフレージャー、ノートン、スピンクス、ホームズ、そしてアリが奇跡を体現した相手・フォアマンなどに次々と当時の様子を振り返ってもらい、アリの印象を語らせる。

インタビューの白眉はやはりフォアマンだろう。アリ戦の後ほどなく引退、伝道師になるも復帰して再びタイトルを手にした彼の半生は、常に注目を浴びたアリとは対照的だが波乱に満ちている。現在も聖職者である彼の容貌・話しぶりは知的で穏やか、全盛期の野獣の雰囲気はまったくない。キンシャサでの試合、ワンツーで足がもつれダウンした時、アリが「止めを刺さなかった」と語る。普通なら倒れる前にもう1発パンチを放ち確実に仕留めるが、アリは自制した。フォアマンはそれをアリが日ごろ口にしていた「クリーン」な精神に起因していると思っているようだ。また3度の死闘を繰り広げたフレージャーは、自分への暴言の数々が家族の耳に入ったことにいまだに憤りを覚えているが、それでもアリがいてこそ己の名が後世にまで残っているのを十分に承知している。アリという太陽の下では、歴戦の強打者たちの強い輝きも所詮は月にすぎないのだ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

アリの戦歴はそのまま対戦相手にとってはキャリアのピークでもあった事実に、あらためてアリが“The Greatest”であったと思い知らされる作品だった。個人的には「ロッキー」のモデルとなったといわれているチャック・ウェップナーのインタビューも聞いてみたかったが。。。

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