こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

おおかみこどもの雨と雪

otello2012-07-24

おおかみこどもの雨と雪

オススメ度 ★★*
監督 細田守
出演 宮崎あおい/大沢たかお/染谷将太/麻生久美子/谷村美月/菅原文太
ナンバー 182
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

恋に落ちた男がおおかみおとこだった。誰にも話せない、しかも、生まれてきた子供には自分たちは異質で人間の世界では受け入れられないかもしれず、絶対に正体を明かすなと躾けなければならない。物語はおおかみおとこと結婚したヒロインが、その後女手ひとつで2人の子供を育てあげる姿を描く。他人に言えない秘密を抱えひとり奮闘したくましくなっていく母親と、無邪気に人間とおおかみをスイッチする子供たち。やがて子供たちはおおかみの血ゆえに苦しみ、選択を迫られる。運命は決して彼らに優しくはないが、とりあえず行動すれば、結構道は開けていくものだとこの映画は教えてくれる。

大学生の花は講義で不思議な男と出会う。ある夜、男はオオカミに変身して花を驚かすが、そんな彼でも花の気持ちは変わらずふたりは結ばれる。そして娘の雪と息子の雨が生まれるが、おおかみおとこは事故死、花は育児のために山奥の一軒家に引っ越す。

人があふれているのに誰にも相談できない都会。人口は少ないが人間関係は濃い農村。人目を避けるために過疎地に逃げてきたのに、逆に人の世話にならなければ生活していけない現実が花にのしかかるが、持ち前の前向きな性格で迎え入れられるようになる。日々の生活の苦労もいつしか解決し、雪と雨もおおかみの性質を時々解放して、ストレスを軽減していく。新雪の上を家族で駆けまわるシーンは瑞々しいきらめきにあふれ、弾けるような躍動感は命の喜びを全身で表現していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

元々、雪も雨も己が何者なのか知っている。ゆえに真実を知った時のアイデンティティクライシスに陥ったりはしない。彼らの苦悩はむしろ過去ではなく、これからどう生きるべきかという未来にある。それは、人間としての人生を強制され、息をひそめて暮らしていた父が持つことを許されなかった夢。正体がばれて村人との軋轢が生まれるといった手あかのついたクライマックスではなく、あくまでも母の大いなる愛にスポットをあて、普通の暮らしにこそ幸せがあると謳いあげる、優しさに満ちた作品だった。

↓公式サイト↓