こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ダークナイト ライジング

otello2012-07-30

ダークナイト ライジング THE DARK KNIGHT RISES

オススメ度 ★★★
監督 クリストファー・ノーラン
出演 クリスチャン・ベイル/マイケル・ケイン/ゲイリー・オールドマン/モーガン・フリーマン/アン・ハサウェイ/トム・ハーディ/マリオン・コティヤール/ジョセフ・ゴードン=レヴィット
ナンバー 189
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

犯罪者が一掃された平和な町は、裏返せば息苦しくなるほど自由が制限されていたのではないだろうか。それは警察による抑圧に他ならない。そしてその権力を裏で支えているのは主人公のような大企業経営者。一方、強靭な肉体の上に作業服と皮コートをまとった残酷で強大な敵は、劣悪な環境で搾取される労働者の代表。出口の見えない不況、公務員の優遇、仕事がない若者たち。いまや低賃金にあえぐ無産階級が求めているのは、格差の是正といった甘いものではなく革命なのだ。映画は町の乗っ取りと全滅を企む一団と主人公の戦いを通じて現代社会の矛盾をあぶり出していく。

脱獄した犯罪者・べインがゴッサムシティの証券取引所を襲い、ケガが完治せず引きこもっていたブルースは活躍のチャンスとバットマンに変身してべイン一味を追う。だが警察に邪魔されたうえ、べインの策謀にはまって全財産を失ってしまう。

さらにべインはブルースが持つ核装置を奪い、町の壊滅を図る。地下に仕掛けられた爆弾を一斉に起爆する瞬間を国家斉唱と重ねるシーンは、米国的な価値観を完全に否定し権力者の手先である警官を駆逐する、まさしく貧困層が待ち望むパラダイムシフトの象徴。またべインに武器を与えられた市民が“人民裁判”によって次々とかつての支配階級を追放していく場面にはむしろ快哉を叫ぶ観客もいるはず。持てる者の正義と持たざる者の正義は“ツーフェイス”のごとく全く違った顔を持つ現実を、クールでスタイリッシュな映像が重々しく訴えてくる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

自覚があったかどうかは不明だが、べインこそ古い秩序の破壊者であり新たな世界を構築するトリガーだ。逆にバットマンは警察や女実業家と協力して武装した市民を制圧し核装置の無力化を試みるなど、齟齬だらけの体制の支持者であると明示される。もはや正義のヒーローを名乗れないバットマン。市民の身代りになることでしか己の良心を満たせない彼の苦悩と哀しみが深く胸に突き刺さる作品だった。

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