こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ソハの地下水道

otello2012-08-03

ソハの地下水道 IN DARKNESS

オススメ度 ★★★
監督 アグニエシュカ・ホランド
出演 ロベルト・ヴィエツキーヴィッチ/ベンノ・フユルマン/ヘルバート・クナウプ
ナンバー 188
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

もちろんユダヤ人にとってナチスドイツは恐怖と憎悪の対象だ。だが、ウクライナ人にとってはスターリンの軛からの解放者であり、ポーランド人にとっては抑圧者。そしてユダヤ人の中にもさまざまな出身・階層・言語があり、ひとつにまとまっているわけではない。第二次大戦中期のポーランドウクライナ国境付近の都市、苛烈なドイツ支配下で多様な民族国籍の人々が入り混じり、市民は己が生き残りだけで精いっぱいだったはず。そんな、旧西側世界では語られなかった複雑怪奇な東欧の歴史に運命を翻弄された主人公は、図らずもユダヤ人を救う戦いに巻き込まれ、真価を問われていく。

下水修理工のソハはナチスの迫害から逃れてトンネルを掘るユダヤ人の一団を遭遇、保護する代わりに多額の見返りを求める。下水網の中の隠れ家に匿った十数人に水と食料を運ぶが、ある日外に出たユダヤ人を庇ってドイツ軍兵士を殺してしまう。

汚物が漂いネズミがうろつく不潔極まりない下水網にわずかに広がる小さな空間で、ランプの灯りを頼りに寝食するユダヤ人たち。少人数にもかかわらず意見が対立したり、痴情のもつれがあったりする。雑魚寝する同胞の目を盗んでセックスし妊娠する女までいる。死の影に脅えながらも人としての営みは忘れず「生」に対して貪欲なユダヤ人像は、絶望した無抵抗な被害者といったこれまでのホロコーストものとは一線を画し強い生命力を感じさせる。暗く退屈な下水道生活を延々と描くことで映画はユダヤ人の置かれた境遇を体感させ、それでもソハという希望に縋り付くしかない彼らはあくまで人間的だ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

身の危険を覚えて一度は手を引こうとするが、ソハはもう後戻りできないところまで来てしまったと悟って腹をくくる。苦悩と逡巡を抱えつつも、結局は命がけでユダヤ人のためにマンホールに入るソハ。コソ泥に過ぎなかった彼にも良心があり、人の思いがそれを目覚めさせたのだ。行動に移す過程は泥臭くかっこよくはないが、その姿に勇気の大切さを教えられた。

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