こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

プンサンケ

otello2012-08-22

プンサンケ 豊山

オススメ度 ★★*
監督 チョン・ジェホン
出演 ユン・ゲサン/キム・ギュリ/キム・ジョンス
ナンバー 207
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

銃弾を浴びても怯まず地雷を踏んでも無傷。疾風のように駆け、影のように忍び寄り、獣のように襲い掛かる。哀しい目をした男は一言も言葉を発することなく、分断された家族の架け橋になろうとする。彼の速さ強さは人間の能力をはるかに越え、霞のように消えては突然現れる神出鬼没さはゴーストのよう。映画はそんな主人公が南北朝鮮双方の情報機関の罠にはめられ追われる中で、同じ民族が武器を向けあう無益さを露わにしていく。民間人は彼を信じているのに役人はあくまで敵視する。虚構と現実が入り混じるなか、国家の存在が人々を不幸にする皮肉が凝縮されていた。

北朝鮮密入国し離散家族の連絡係を務めるプンサンケは、ある日、脱北高官・キムの恋人・イノクの救出を依頼される。無事イノクを送り届けたあと依頼者の韓国情報部に裏切られるが、逆にキムとイノクが乗ったクルマを奪う。

北に潜入してピョンヤンで手紙や映像を交換、その上で人も連れ出す。所要時間はわずか3時間、プンサンケの手際と不死身は神業だ。しかし、イノクを脱出させた時にふたりの感情が交わり、運命が暗転する。そこに北の工作員も介入、プンサンケはイノクという弱点を持ったため南北の工作員から命がけの使いパシリを強要される羽目になる。双方からスパイ呼ばわりされるプンサンケ。曖昧な態度は許されず、旗幟鮮明にしければ生き残れない朝鮮半島の緊張がプンサンケとイノクを追い詰めていく。それは南北両国民の思いを踏みにじるのと同じ。一方でプンサンケの逆襲にあい、進退きわまっても、国家に対する忠誠をなにより優先する工作員たちの姿はもはや滑稽でしかない。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

プンサンケの生きる場所は軍事境界線の中だけなのか、そこでは不死身でいられる。それは離散家族の願いを背負っていたからだが、イノクを失って憎しみの塊となった彼は無残に銃弾の餌食になっていく。スピード感あふれるアクションと血まみれのバイオレンス、さらに南北工作員チキンレースなど、少しずれた視点から見る朝鮮半島の風景はどこかユーモアすら漂わせるユニークな作品だった。

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