こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

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otello2012-08-28

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オススメ度 ★★*
監督 降旗康男
出演 高倉健/ビートたけし/田中裕子/佐藤浩市/草なぎ剛/余貴美子/綾瀬はるか/浅野忠信/三浦貴大/大滝秀治/長塚京三/原田美枝子
ナンバー 212
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

届かなかった思い、叶わなかった願い、主人公はそんな「気持ち」を託されて旅に出る。愛し愛されていた妻、彼女が残した宿題は、敷かれたレールの上を歩んできた彼の人生に、初めて自分の頭で考えるチャンスを与える。きっと答えなんかない、でも他者の意見を聞いてみれば何か違うものが見えてくるはず。物語は妻の遺言を執行するために西に向かった男が、さまざまな出会いを経て、人の心の機微に触れていく姿を描く。オレンジ色に染まった夕日、雲海に浮かぶ城址、早朝の海、灯台に舞う2葉の絵手紙etc. 自然の力を強調したようなヴィヴィッドな映像は、山頭火の句のように深く胸に染みいってくる。

富山刑務所技術指導官の倉沢は、故郷の海に散骨してほしいと記した妻・葉子の遺骨を載せてミニバンで長崎を目指す。道中、元中学校教師やイカ飯実演販売員らとの交流を楽しむ。

皆それぞれに言いづらい苦悩を抱えている。だが、赤の他人の気安さからか、つい胸の奥のくすぶりを打ち明けていく。自由に放浪を楽しむ老人、日本中に足をのばしほとんど家族と顔を合わせない販売員、ゼロからやり直そうとする営業マン。ふれあいが希薄になった現代でも、旅という非日常ではまだまだ人情が交差する機会があることを教えてくれる。やがて寡黙な倉沢も重い口を開き、亡き葉子の思い出が脳裏によみがえってくる。ただ、その過程は淡々として感情的にも盛り上がりが乏しくやや平板な印象は否めない。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

倉沢はイカ飯営業マン・南原からある住所と名前を手渡され、小さな漁港で散骨に協力してくれる船を探す。メモに託した南原の胸中、メモの筆跡を見た食堂のおかみと釣り船屋の爺さん、そして事情を察した上で“鳩”になった倉沢の気遣い。そのあたりの、人は誰もが言葉にできない思いを秘めていて、それを汲んでやるのが大人の心遣いといった“仕掛け”は、いかにも健さん=降旗監督的な枯れた味わい。しみじみとした余韻が後を引く作品だった。

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