こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

情熱のピアニズム

otello2012-09-06

情熱のピアニズム Michel Petrucciani

監督 マイケル・ラドフォード
出演 ミシェル・ペトルチアーニ/チャールス・ロイド/アルド・ロマーノ/リー・コニッツ
ナンバー 215
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

胸より上は立派な大人の体格と顔を持つが、胴体と両足は発育不良のまま。ところが、身長1メートルほどしかない肉体から迸るエネルギーは聴衆を圧倒し、感動させ、陶酔を与える。指先が紡ぎだす旋律は時に繊細で時に情熱的、それは身体の自由をほぼ奪われた男の魂の自由を叫ぶ声だ。映画は先天的骨形成不全症と闘いながらも、稀代の天才ジャズピアニストとして一時代を築いたミシェル・ペトルチアーニの生涯を、関係者のインタビューと生前の映像で再構成する。障害を活力にし、異形を魅力にすり替え、過酷な運命ですらアートに昇華してしまう。彼のポジティブな生き方はあくまで奔放で刺激的だ。

生まれたときから全身骨折していたミシェルは両親や産科医から絶望的と思われたが、やがて音楽に興味を持ち始める。父の英才教育でジャズピアノの腕を上げ13歳でプロデュー、有名なジャズプレイヤーとセッションを重ね名声を手に入れていく。

18歳でフランスから米国西海岸に渡ったミシェルは本場のアーティストたちと交流を重ね、彼の演奏が超一流であると証明していく。ピアノの高音部を高速で叩き続ける姿は、こんな体を与えた神に対する抗議の悲鳴にも聞こえ、彼の超絶技巧は誰にも真似ができない。一方で、あまりの激しさに度々腕や指を骨折する。まさに身を削りながらのパフォーマンスは、己の命が長くないことを悟っていたから。だからこそ女にも手が早く、結婚離婚を繰り返しあちこちに恋人を作っては別れる。人生を完全燃焼したい、悩んでる暇はない、そんな彼の楽天的で積極的な姿勢がより多くのファンの心を引きつける。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

だが、それはミシェルの大きなコンプレックスの裏返しなのかもしれない。同じ病気を持つ彼の息子が、巨人の国に迷いこんだような気持で生きる苦悩を告白するが、ミシェル自身も同じ思いを抱え、克服するためにピアノという武器で武装したのだろう。そして、その葛藤を見せない彼はあくまでもクールだ。。。

オススメ度 ★★★

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