こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

最終目的地

otello2012-09-25

最終目的地
THE CITY OF YOUR FINAL DESTINATION

監督 ジェームズ・アイヴォリー
出演 アンソニー・ホプキンス/ローラ・リニー/シャルロット・ゲンズブール/オマー・メトワリー/真田広之/アレクサンドラ・マリア・ララ/ノルマ・アレアンドロ
ナンバー 232
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

いつまでも講師ままでいられないのは分かっている、行動する勇気がなかっただけ。いつまでも哀しみに浸っていてはいけないのは分かっている、抜け出すきっかけがなかっただけ。そんな停滞した日々を送っていた人々が出会ったっ時、彼らの時間が動き始める。物語は米国の大学院生が、ウルグアイのある家族を訪ねたことから起きる、心の変化を描く。大平原に孤立した豪邸、放牧された牛を追うガウチョ、庭を眺めながらたしなむ酒や自家製の蜂蜜、馬での移動・・・。ケータイもパソコンもない環境で、主人公が濃密な人間関係を結んでいかざるをえない過程は一種のカルチャーショックを覚える。

大学で文学を教えるオマールは、1作の著作を残して自殺した作家・ユルスの伝記執筆の公認を遺族に断られるが、恋人のディアドラの勧めで直接依頼に行く。はるばる訪れた邸宅ではユルスの愛人・アーデンに歓迎されるが妻のキャロラインは頑なに公認に反対する。

ユルスの妻と愛人、その娘、兄とゲイ恋人の5人が暮らす奇妙な家族には、いまだにユルスが中心にいるよう。オマールは彼らのとって久しぶりの闖入者、家族はユルスの断片的な情報しかオマールに話さないが、それでも徐々に公認しようという気になっていく。彼らはユルスへの思いをオマールに託して、ユルスの呪縛から解放されようとしているのかもしれない。ゆっくりと流れる日常、何度も反芻しなければ真意を見抜けない複雑な言葉と態度、望まぬ者との同居、忘れ得ぬ記憶、宗教上のタブー。それらが混然としながらも同時に存在し、愛と憎しみと後悔と希望といった感情が交差する世界が端正な映像にまとめ上げられていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

キャロラインがユルスの遺稿を燃やそうとするシーンに象徴されるように、きっと遺族たちもそろそろ新しい道に進もうと考えていたのだろう。オマールにとっても、苦悩しつつも自由に生きたユルスの伝記を書きあげるのは、口うるさいディアドラからの自立を意味する。そう、人生の最終目的地は己の意志で選ぶべきと、この作品は教えてくれる。

オススメ度 ★★★

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