こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ライク・サムワン・イン・ラブ

otello2012-10-03

ライク・サムワン・イン・ラブ LIKE SOMEONE IN LOVE

監督 アッバス・キアロスタミ
出演 奥野匡/高梨臨/加瀬亮/でんでん/森レイ子/大堀こういち
ナンバー 243
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

こちらの都合にはお構いなく、いきなり貴重な時間を奪っていく。火急の用ではないと無視してもメッセージが残され、返答しなかったことに小さな罪悪感を植え付ける。確かにコミュニケーションの手段としてはなくてはならないモノになった、だが、誰かと繋がっていたい願望はいつしか人々の自由を縛めていく。電話というツールの、かける方の傍若無人さに振り回される受信者の迷惑が再現されるエピソードの数々がリアルで楽しめた。忙しいのに用件を押し付ける、一度応答するとなかなか切れない、そんな電話を受けてしまった人々のうろたえぶりが滑稽だ。映画は女子大生エスコート嬢と客の老学者の夜と昼に密着し、ままならぬ日常の1コマを切り取る。

デリバリー風俗嬢のアキコは恋人・ノリアキとのトラブルを抱えたまま引退した大学教授・ワタナベの部屋に派遣される。ワタナベはアキコに亡き妻の面影をみて丁寧にもてなそうとするが、アキコは眠ってしまう。

翌朝、ワタナベはアキコを大学まで送るが、待ち伏せていたノリアキはワタナベをアキコの祖父と思い込んで話しかけてくる。粗暴な男だが、仕事や結婚に対してはしっかりとした考えを持つ筋の通った一面に、ノリアキに対する先入観が覆されていく。ワタナベは「答えの分かっている質問はしない」などと夫婦生活を長続きさせる秘訣ではぐらかしたりしつつも、当然アキコとの本当の関係は明かせないでいる。そして一度ついた嘘を破綻させないためにさらに嘘を重ねていく。その危うさが奇妙な緊張感を生んでいた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ところが、多用される長まわしのカットはひたすら冗漫で、アキコやワタナベの表情を見つめるカメラは彼らの内面に踏み込もうとしない。また、彼らの会話には無駄な“間”が多いのに、本筋とは無関係な隣家のオバハンが一方的に意味のない世間話をする。このアンバランスに人生の不条理を感じさせようとする監督の狙いは成功しているとは思えず、作品を支配する停滞感は、最後にノリアキが“破壊”するまで続く。。。

オススメ度 ★★

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