こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ドリームハウス 

otello2012-10-05

ドリームハウス DREAM HOUSE

監督 ジム・シェリダン
出演 ダニエル・クレイグ/ナオミ・ワッツ/レイチェル・ワイズ/サラ・ガドン
ナンバー 238
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

夢にまで見たマイホーム、美しい妻・幼い娘たちとの幸福に満ちた暮らし、そして新しい人生のスタート。男にとって未来は輝かしいものになるはずだった。あの悲劇の記録を目にするまでは。意味ありげな表情の隣人、不審な人影、やがて明るみになっていく凄惨な事実。物語は念願の一戸建てを手に入れた主人公一家が遭遇する恐怖を描く。それは過去から甦った亡霊、忘れていた忌わしい体験でもある。ところが、映画はそんな手垢のついたホラーの定石をはるかに凌駕し、妄想と現実のはざまで行きかう予期せぬ展開の連続に、思わず身を乗り出し、息をのんだ。

出版社を退職し、郊外の一軒家で妻とふたりの娘とともに執筆生活に入ったウィル。だが、娘たちが夜な夜な不気味な影や物音に脅え始める。その後地元の若者たちから、かつてこの家で一家惨殺事件が起こり、犯人が帰ってきたと知らされる。

有能な編集者だったウィルが、なぜ事件を知らなかったのか、家の購入前に調べなかったのか。その矛盾はウィルの一見明晰で信頼のおけそうに見える人間像を徐々に壊していく。見たいものしか見ず、都合の悪いことには耳目を塞いでいるのではという疑問。さらに、ウィルが独自に調査していくうちに思いもよらぬ衝撃の真実が明らかになっていく過程は、ミステリアスかつスリリング。ウィルを演じたダニエル・クレイグは人格の変化をサラサラヘアとオールバックという髪型で演じ分け、愛と苦悩、怒りといった感情を表現する。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

探し求めていた人物が自分自身だった、では今の自分はいったい何者なのか。ウィルは深刻なアイデンティティクライシスに陥りながらも、迫りくる危機に対処しなければならない。同時に幻覚の中の妻子に死を認めさせようとする。己に関する記憶は失っても家族との思い出は強く心に焼き付いている。それらがもう取り戻せないと気づき、罪のない人間だけでも救おうと決意した時、ウィルのかけがえのない愛の物語としてこの作品は昇華されていくのだ。

オススメ度 ★★★

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