こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

最初の人間

otello2012-10-11

最初の人間 Le Premier Homme

監督 ジャンニ・アメリオ
出演 ジャック・ガンブラン/カトリーヌ・ソラ、マヤ・サンサ/ドニ・ポダリデス/ウラ・ボーゲ
ナンバー 227
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

海外領土に生まれ育った者にとって、本国は祖国であっても故郷ではない。そして今や故郷は祖国に反旗を翻している。いったいどちら側に身を置くべきか、男は自らのアイデンティティを模索すべく遠き日に思いを馳せ、異教徒が取り戻そうとしている植民地を顧みる。父はフランス人として戦死し、その誇り高き血を受け継いでフランスの教育を受けてきた。同時に、アルジェリアの気候風土が身にしみつきアラブ人にも知人がいる。映画はアルジェリア出身のフランス人作家が、アルジェリア独立運動中に旗幟鮮明な態度を取れない苦悩を描く。軍部による弾圧も爆弾テロも否定し理想論を口にする彼の姿はどこか自信なさげで、政治の巨大なうねりの中では個人はいかに無力であるかを思い知らされる。

1957年、アルジェリアの大学で講演したジャックはブーイングを浴びる。その後、母の元を訪ねるうちに小学生のころを思い出す。厳しくも愛に満ちた体験はジャックの人生に大きな影を落としていた。

フランスでの名声は得ていても、アルジェリアで過ごした少年時代の情景は決して色褪せない。貧しい暮らしで進学がおぼつかなかったが先生のおかげで奨学金が得られたこと。家族が誰も文字を読めなかったこと。ジャックの一家はフランス人社会では下層の労働者階級なのに、アラブ人よりは恵まれた生活をしていたこと。そんな下地があるからこそ、ジャックはフランスの支配階級にもアラブ人にも完全に同調できず否定もできない。彼の胸の内を占めるのは流血の応酬への怒りより、確固たるバックグラウンドを持てない自身の生い立ちへのいらだちにも見える。だがそれは二つの文化をつなぐ架け橋にもなりうるのだ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがてジャックはアラブ人と共存しながらこの土地にしがみついて生きていくしかないフランス人農園主の話を聞くうちに、自分はフランス人ではあるが心はアルジェリアにあるという決意を固める。結局彼の思想が踏みにじられるのは歴史が教えてくれる。それでも、母に対する暴力だけは許さない姿勢に、表現者として、いや人間としての意地と使命が感じられた。

オススメ度 ★★★

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