こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

北のカナリアたち

otello2012-11-06

北のカナリアたち

監督 阪本順治
出演 吉永小百合/柴田恭兵/仲村トオル/里見浩太朗/森山未來/満島ひかり/勝地涼/宮崎あおい/小池栄子/松田龍平
ナンバー 272
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

交わされたままの約束、言いそびれた言葉、知らされなかった事実。とっくの昔に記憶の彼方に封印していた忌まわしい出来事が突然脳裏によみがえる。そして、要領は悪いが素直で優しかった教え子が事件の容疑者と聞かされたヒロインは、彼の所在を求めて旅を続けるうちにわだかまりを解いていく。映画は、元小学校教師がかつての教え子を一人ずつ訪ね、幸せだった季節の裏の児童たちの気持ちを紐解いていく。いじめや諍いはどんな環境でも起こりうる、また誰もがみな他人には見せない別の一面を持っている、そんな人生の真理が明かされていく過程はスリリングな上、愛に満ちている。

図書館司書を定年退職したはるの元に刑事が訪れ、20年前に北海道の離島で教鞭をとっていたころの教え子・信人が殺人を犯して逃亡中と事情聴取を受ける。はるは同時期に教え子だった5人の消息をたどって北海道に飛ぶ。

はるが島で過ごした日々、吃音の信人に自信を持たせようと合唱を始めるが、その後狭い村の人間関係の中で芽生える悪意のなかで信頼が崩れていく。水に流すには苦すぎ、心のしこりは消えない。それでもはるはもう大人になった教え子たちを重荷から解放してやるとともに自らの蹉跌も清算していく。波高い海、雪に閉ざされた冬、緑濃い大地・・・雄大な北海道の自然を背景に20年前と現在が混在するミステリー仕立ての構成は、人間の奥深いところに眠る真実の皮を一枚ずつはがしていくような緊張感にあふれていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

はるの行動は、信人の居場所を確かめるためではなく、信人との約束を果たすため。廃校の教室に集ったはると旧友に信人が再会する場面は、省略の美学が見事に結実し、描かれなかったことで想像力を刺激する。やや甘さは残るものの、それぞれのお互いへの思いと、遠い過去への贖罪、未来への希望が込められた「カナリアの歌」が深く胸に沁み入る作品だった。ただ、はると警官の不倫にもっとドロドロとした情念が込められていれば彼女の苦悩にも共感できたのだが、吉永小百合のイメージを慮ってのキャラクター設定は少し物足りなかった。

オススメ度 ★★★

↓公式サイト↓