こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

渾身 KON-SHIN

otello2012-11-22

渾身 KON-SHIN

監督 錦織良成
出演 青柳翔/伊藤歩/笹野高史/甲本雅裕/宮崎美子/井上華月
ナンバー 262
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

心技体に優れた者のみが選ばれ、彼らの真剣勝負は“神事”として奉納される。それは古来よりの伝統と格式を守りつつ、住民の心を一つにまとめる祭りでもある。映画は、そんな隠岐島に残る古典相撲を、大勢の力士や観客の喧騒と熱気の中で再現する。三段重ねの土俵、やぐらを支える柱、客席から大量に撒かれる塩、地元の期待を一身に背負い自らの誇りを賭けて夜通し闘う男たち。自然との距離がとても近く、一方で開発の手があまり伸びていないからこそ大切に保存されている日本古来の姿がそこにはある。そして相撲をめぐる様々な人間模様を通じて、愛や家族、人と人の絆とは何かを問うていく。

隠岐島で20年に一度開かれる古典相撲大会で、最高位の正三役大関に推挙された英明。駆け落ちして結婚した妻と幼い娘、早世した妻に代わって後妻になった多美子ら、他にも多くの隣人たちに見守られてきた人生に思いを馳せていた。

妻の死後、彼女の親友だった多美子だけでなく、信江という中年女性まで、幼い娘の面倒を見、英明の暮らし全般をかいがいしく世話してくれる。その間、英明は相撲の稽古に励み腕を上げていく。島の男たちも英明の生活態度を評価し始めている。この、打ち解けるには時間はかかるが、困った時は誰かが手を差し伸べてくれる地縁の濃さが島のよさ。都会なら考えられない住民一体型の社会は互助精神にあふれている。しかし、それゆえに面目つぶされた父から英明は勘当されたまま。そのあたりの地域コミュニティ特有のややこしい人間関係がリアルだった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、英明が隠岐島に戻った理由がスルーされるため、彼の抱える蹉跌が分からない上、相撲にのめり込んだ動機も不明。彼のキャラクターに深みがないのが残念だった。また、中年のオッサンとオバハンの恋も、物語の展開からスピード感を奪っている。もっと英明本人の苦悩と彼の両親との軋轢に焦点を絞り込んでいれば、引きしまった印象になったはずだ。

オススメ度 ★★*

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