こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

故郷よ 

otello2012-11-23

故郷よ La terre outragee

監督 ミハル・ボガニル
出演 オルガ・キュリレンコ/アンジェイ・ヒラ/イリヤ・イオシフォフ/セルゲイ・ストレルニコフ/ニコラ・バンズィッキ
ナンバー 286
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

湖上で開かれている結婚パーティの足元で魚や鳥が無残に息絶えている。突然の雨は黒いしずくとなって純白のケーキを汚していく。遠くにかすむ発電所からは白い煙が立ち昇っている。さんさんと降り注ぐ陽光、元気よくさえずる小鳥、昨日までのうららかな春の日がとてつもない凶事に呑み込まれているのに、人々は正体が分からないまま日常を過ごしている。1986年チェルノブイリ、映画は原発近くの町・プリピャチの住民の“あの日”とその後を追う。強制避難のバスに乗せられる市民の群れが、フクシマを逃れた被災者の姿を連想させる。

4月25日、アレクセイとヴァレリー父子は川辺にリンゴの木を植える。アーニャは夫とボートの上で愛を語り合う。翌朝、大雨の中、町と発電所を結ぶ道路は軍によって封鎖され、アレクセイは放射線計を持ちだし、アーニャの夫は“消化活動”に駆り出される

ほとんどの市民は普段通りに過ごしている。事情を知っているアレクセイが食料は汚染されていると忠告しても相手にされず、ただ無防備に雨に濡れる人々に傘を差し出す以外なす術がない。その間も“最悪の事態は音もなく起きる”という言葉通り、目に見えない放射線は容赦なく人間の肉体と精神を蝕んでいく。正確な情報の公開と迅速な対応がいかに大切か、民主化以前のソ連では国民が政府に強く声を上げるなど考えられないが、事態の深刻さを知ろうとしない無関心な態度が恐ろしかった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

10年後、プリピャチ観光のガイドになったアーニャはフランス人の誘いを断る。ヴァレリーは禁を破ってかつて住んでいたアパートにアレクセイを探しに戻る。安全な場所にいても、結局彼らの居場所はプリピャチにしかない。家族のもとに帰ろうと列車に乗るアレクセイが、「プリチャピ駅などない」と車掌につまみ出されるシーンが、原発事故で故郷を失った避難民の悲しみを象徴していた。そして、悲劇は現在進行形でこれからも続いていくことに、フクシマの未来を重ね合わせてしまうのだ。

オススメ度 ★★★

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