こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

大奥〜永遠〜[右衛門佐・綱吉篇]

otello2012-12-13

大奥〜永遠〜[右衛門佐・綱吉篇]

監督 金子文紀
出演 堺雅人/菅野美穂/尾野真千子/柄本佑/要潤/宮藤官九郎/西田敏行/桐山漣/竜星涼/永江祐貴/郭智博/満島真之介/三浦貴大
ナンバー 302
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

大広間に一堂に会した大名旗本の面々、時代劇でおなじみの場面だが、そこにいるのはみなきらびやかな和服に身を包んだ女たち。さらに彼女たちの前に威風堂々と登場する将軍はより豪奢な装束をまとっている。疫病の流行で男女の役割が逆転した架空の江戸時代、城内の要職を占め実務を取り仕切るのはすべて女、わずかに生き残った男たちは大奥で主導権争いを繰り広げている。物語は美男の誉れ高く教養学識豊かな主人公を通して、男同士の憎悪と嫉妬、最高権力者の孤独と独善を描く。衣装風俗に至るディテールにこだわった世界観は、性を入れ替えても同じ立場になると同じような行動をとるという人間の浅はかさに通じている。

5代将軍綱吉の治世、京の貧乏公家の右衛門佐が大奥入りする。右衛門佐は綱吉の父・桂昌院ににらまれるが持ち前の機転でやり過ごし、たちまち綱吉のお気に入りに加わる。だが、夜の相手だけは頑として拒んでいた。

廊下の左右に侍る大奥の秀麗眉目の若侍たち、この優越感こそが映画の醍醐味だ。性欲の強い女ならば一度は夢に見る酒池肉林、目を付けた男たちを抱き放題できる幸せ。結局、権力とはどれだけ他人を自分の思い通りに動かせるかに尽きる。男狂いの綱吉が年老いて後、“若い男を喜ばせるためにどれほど苦労したか”と右衛門佐に愚痴るシーンがあるが、やはり将軍の前では男は委縮するもの。松姫亡き後世継ぎができなかったのは若侍の心因性EDにも原因があると思わせるあたり、女としては大切に扱われない彼女の切なさがにじみ出ていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後、生類憐みの令で大いに評判を落とした綱吉。そんな彼女に恋していたと告白する右衛門佐。己の野望のために愛は捨ててはずなのに、綱吉がいつしかかけがえのない存在になっている。不器用な生き方しかできなかった封建社会の人々のあはれさに、人生を選択できる現代の自由をあらためてかみしめる作品だった。

オススメ度 ★★*

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