こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

汚れなき祈り

otello2012-12-17

汚れなき祈り DUPA DEALURI

監督 クリスチャン・ムンギウ
出演 コスミナ・ストラタン/クリスティーナ・フルトゥル/バレリウ・アンドリウツァ/ダナ・タパラガ
ナンバー 306
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

電気もなく水道もない、ランプの明かりと井戸水を頼りに生活している修道女たち。電話やクルマといった文明の利器がなければ中世の修道院とみまがう質素な暮らしだ。しかし、信仰に生きる道を選んだ彼女たちは“足る”を知り、静かで単調な祈りを捧げる日々に満足している。映画は、その環境に図らずも飛び込んだ娘が次第に精神に異常をきたしていく姿を描く。先進国から数百年後退した小さな世界、親友と信じていた友人の心変わり、そして“神”をめぐる価値観の決定的相違。キリスト教東方正教会の教義を頑なに守ろうとする司教・修道女たちの日常が細部にまでリアルに再現され非常に興味深かった。

同じルーマニアの孤児院で育ち修道女になったヴォイキツァを訪ねて、ドイツからアリーナが戻ってくる。アリーナは一時的に修道院に身を置くが、堅苦しい人間関係とヴォイキツァの裏切りにあい、自傷行為に走ってしまう

ロープで縛られ病院に搬送されたアリーナは精神疾患と診断されベッドに拘束されている。少女時代、空手を習っていたアリーナは、それ以前は孤児院内で様々な抑圧を受けてきたはず。せっかくドイツで自由な空気に浸ってきたのに、修道院での精神的・肉体的束縛は彼女にトラウマを思い出させ過剰なストレスになったのだ。だが、教会の人々に彼女の症状に対する知識はなく、悪魔祓いで対処する。実際には拘禁と断食という罰が与えられるだけ。カメラはそんな彼らの行いを延々と凝視し、人の心の中で起きる変化をあぶり出そうとする。俳優たちの白い息がいかに厳しい天候の下で行われたかを物語っていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

奇行を繰り返すアリーナ、もはや司祭も修道女たちも板に縛り付けるより方法がない。猿轡をかまされてアリーナの精神はさらに壊れていく。ヴォイキツァが鎖を解いた瞬間正気を取り戻すアリーナを見ていると、やはり自由を奪われたことが彼女を狂わせた原因なのだろう。司祭らを乗せたパトカーが泥水をぶっかけられるシーンは、神の名を借りる人々の堕落を象徴しているようだった。。。

オススメ度 ★★★