こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

フライト

otello2013-01-11

フライト Flight

監督 ロバート・ゼメキス
出演 デンゼル・ワシントン/ドン・チードル/ケリー・ライリー/ジョン・グッドマン/ブルース・グリーンウッド/メリッサ・レオ
ナンバー 5
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

嘘をつき、ごまかし、上塗りするために言い訳を繰り返す男。己の非を自覚しているのに他人の前では虚勢を張る。そして期待を踏みにじり信頼を裏切ってもなお態度を改めようとせず、現実から目を背け自分から逃げ続ける。そんな、酒浸りの主人公をデンゼル・ワシントンが好演、苦悩と逡巡の末に酒に手を出す姿は哀れで醜くむしろ滑稽ですらある。映画は、航空機事故から多数の乗客乗員の命を救った敏腕パイロットの、操縦中の飲酒が発覚したことから表面化する彼とアルコールの葛藤を描く。嫌悪感さえ抱く彼の堕落ぶりは、弱さという人間の本性の正鵠を射る。

垂直尾翼の故障で急降下を始めた機体を立て直そうとする機長のウィトカーは、神がかり的なテクニックで墜落を回避、草原に不時着させて最小限の被害にとどめる。一躍マスコミの寵児となったウィトカーだが、血液検査でアルコール反応が出ていたのが明らかになる。

豊富な経験に裏打ちされた機転で悪天候と乱気流をかわすウィトカー。直後に操舵不能に陥った機体を反転させ背面飛行でバランスを保つ。さらに再反転させて教会の尖塔をかすめて胴体着陸させるシーンはスリルに満ち、思わず身を乗り出してしまう。死の恐怖と生への執着、パニックになりそうな人々を尻目に最後まであきらめないウィトカーの行動力は米国人が好むヒーローそのものだ。ところが、事故はあくまで機体の整備不良が原因なのに、事故調査委員会はウィトカーの飲酒癖を追求する。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

危機に対してはあれほどの能力を発揮したのに飲酒の事実はひたすら隠し通そうとするウィトカー。一方で酒をやめられない。カメラは堕ちた英雄になっていく彼を容赦なく追い詰める。それでも、わずかに残った良心と自尊心が彼に勇気を与えて「真実は人を自由にする」の言葉を体現し、このやるせない物語に希望をもたらす。頭では理解しているが酒瓶を目の前にするとすべてを忘れ、抑えきれなくなる。そのアル中患者特有の感情と習性が非常にリアルに再現されていた。

オススメ度 ★★★*

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