アルバート氏の人生 Albert Nobbs
監督 ロドリゴ・ガルシア
出演 グレン・クローズ/ミア・ワシコウスカ/アーロン・ジョンソン/ジャネット・マクティア/ポーリン・コリンズ/ブレンダン・グリーソン
ナンバー 14
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
遠くを見るような青い瞳、わずかな笑みを湛えた口元、まっすぐに伸びた背筋。正装に身を固めた“彼”は、差し出がましくもなく遠慮するでもなく必要十分なサービスを客に提供する。19世紀アイルランド、女がひとりで生きていくには「男」になるほか選択肢はなく、“彼”はウエイターとしてひっそりと暮らしている。物語はそんな秘密を数十年も抱えているヒロインが、未来に一歩を踏み出そうとする過程を描く。圧倒的に弱い労働者の立場と女の人権、それでも夢をもち、愛し愛される人がいれば人生は充たされると映画は教えてくれる。あくまで感情を抑制し、所作話法まで男にしか見えないグレン・クローズの気品高き演技には脱帽する。
ホテルの住み込みの従業員・アルバートはタバコ屋の開業資金にチップを貯めている。ある日、部屋に泊まったペンキ屋のヒューバートに女であるとバレ動揺するが、口が堅くわが道をゆくタイプのヒューバートに感化されていく。
ヒューバートのアドバイスでメイドのヘレンに交際を申し込むアルバート。だが、ヘレンはボイラー技士・ジョーの恋人でもある。アルバートにとって自分らしいというのは「女」に戻るのではなく、女をパートナーにすること。恋愛を避けてきたはずのアルバートの心はいつしか男になってしまったのだろう。労働者階級の男たちはみな飲んだくれのろくでなし、多くの女がDVに苦しんでいたのも原因に違いない。年齢の離れた2人のデートは、ジョーに唆されたヘレンの魂胆が分かっているだけに、アルバートの人の好さにハラハラさせられてしまう。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
一度だけアルバートはドレスを身に付け、ヒューバーと共に街を歩きビーチを走る。初めて見せる弾けた笑顔に、アルバートも本当は女の幸せをつかみたかったが、結局何が幸せかわからないまま年齢を重ねてきたことがうかがえる。女の格好をしているのだから女らしく振舞ってもよいのに、長年しみついた習慣から“女装したオッサン”の歩き方・走り方になっているアルバートの姿に、彼女の体験してきた過去の苦汁が凝縮されていた。。。
オススメ度 ★★*