監督 廣木隆一
出演 宮崎あおい/向井理/濱田龍臣/浅見姫香/本田望結/柄本明/松原智恵子/リリー・フランキー/緒川たまき
ナンバー 28
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
動物や昆虫だけでなく木や草花とも会話できる妻。機嫌が悪くなると思い詰めたように黙り込み、爆発しそうな感情を必死で抑え込んでいる。その姿はもはや“感受性が強く想像力豊か”といった肯定的なものではなく、“常に妄想に駆られ狂気の一歩手前で踏みとどまっている”よう。夫とふたりきりの満ち足りた平穏をかみしめているときの笑顔と、夫と気持ちが通じないときに見せる怒りと不満と悲しさが入り混じった表情、眉毛が半分しかなくほとんどスッピンの宮崎あおいが情緒不安定のヒロイン二つの顔を演じ分ける。たとえ夫婦でもすべては分かり合えない、だからきちんと言葉で伝えなければならない。ファンタジックなのにミステリアスな映像が人間の心の難しさを切々と訴える。
出会ってすぐ結婚し、田舎の広い一軒家に住むムコとツマはまだお互いのことをよく知らないが、深く愛し合って暮らしている。ある日、ムコ宛てに手紙が届いたのを機に、ふたりの間に微妙な溝が生まれる。
ツマは子供時代の病気のせいで人生のはかなさを知っているからこそ、今の幸せを手放したくない。だが思いをうまく口にできず、すねた態度を取り続ける。ムコは彼女を慮ってつらい記憶を話さずにいたのに、それが一層ツマの不安を煽っている。思いやりがかえって相手を傷つける、そんなふたりの繊細な心情をカメラはアップを多用した長回しでとらえる。特に海に行く道中、軽トラックの助手席で見せるツマの視線のゆらぎは彼女とムコの距離感を饒舌に物語り、恐ろしいまでの緊張感を孕んでいた。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
やがてムコは東京に戻り、封印していた過去と対峙する。そこに登場するのも、自殺した叔母や壊れてしまった人妻など、精神のバランスを崩した女たち。そういえば、隣人の妻は認知症だし、不登校児やツマに絡む少女は生意気な淋しがり屋。この作品の女たちはみな“弱い自分”を隠さずさらけ出し、優しさを求めてばかりいる。彼女たちに関わったせいで重荷を背負わされた男たち、彼らの運命が哀れだった。。。
オススメ度 ★★*