こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

リンカーン

otello2013-02-18

リンカーン Lincoln

監督 スティーブン・スピルバーグ
出演 ダニエル・デイ=ルイス/サリー・フィールド/デビッド・ストラザーン/ジョセフ・ゴードン=レビット/ジェームズ・スペイダー
ナンバー 38
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

肖像が日本の教科書にも紹介されるほどの偉大な大統領。何を成し遂げたかは誰もが知っているが、目的にたどり着くまでの苦難の道のりはあまり語られていない。映画では奴隷解放と内戦の終結、二つを達成するために彼が知略と謀略を駆使し、議会をまとめるために泥臭いまでの戦術を取っていた事実が描かれる。同時に妻の肝癪に手を焼き、息子を制止できない普通の夫・父としての苦悩ものぞかせる。結局、英雄も人間、家族も側近も政敵もみな人間、歴史となって後世に伝えられた高邁な理念だけでは人の心は動かない。ロビイストを使って、政敵をなだめ、すかし、買収し、時には脅迫まがいに共鳴者を増やしていく過程で、生臭い政治の世界を再現する。

リンカーン大統領は、奴隷制度廃止を謳う憲法修正案を通過させるため下院での多数派工作を国務長官に命じる。他方、民主党の奴隷制存続派は南軍との和平を急がせようとする。奴隷解放を南部諸州にも徹底したいリンカーンは、あくまで早期に修正案の成立を目指す。

戦場で銃を取り命を張る黒人兵と気軽に言葉を交わすリンカーン。そんな姿は民主主義の理想と崇められているが、実際は権謀術数に長けた駆け引きと妥協の達人。もちろんそれは現実を見なければならない大統領という立場によるのだが。一方で、黒人家政婦を妻にする急進派の奴隷解放論者であるスティーブンス議員に自重を求めるなど、当然すべての人々がリンカーンに賛同しているわけではない。米国民主主義の頂点に立つ者が民主主義の手続きに足元を絡め取られ自由に動けない。その自縄自縛もまた民主主義であることをリンカーンは身をもって証明する。肖像写真から抜け出たようなメイクで彼を演じたダニエル・デイ=ルイスの圧倒的な存在感が、スクリーンから緊張感を漲らせていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

そして採決の日、黒人たちが見守る中、議員たちはひとりずつ名前を呼ばれ賛成反対を問われていく。その際、裏切り者のそしりを受けても賛成した民主党議員は理性的な判断を下した人として名を残すが、反対した議員の子孫はいまだに肩身が狭いはず。今では当たり前に享受している権利も、苦難を乗り越えた先人のおかげであると改めて教えられた。

オススメ度 ★★★*

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