こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

くちづけ

otello2013-03-16

くちづけ

監督 堤幸彦
出演 貫地谷しほり/竹中直人/宅間孝行/田畑智子/橋本愛/岡本麗/嶋田久作/麻生祐未/平田満
ナンバー 62
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

夢を抱いても叶わないのは分かっている、希望にすがっても無意味と知っている。だが、懸命に生きようとしている姿に絶望しているわけにはいかない。映画は知的障害児を持った父の気持ちをリアルに再現する。運命を呪い、神を恨んだ過去もあったはず、それでも生まれてきた娘をこよなく愛する男は、人生を投げ打ってまで彼女を守ろうとする。物語は障害者の娘とその父を中心に、彼らが共同生活を送るグループホームの人々を通して、カネも人手も足りない施設、偏見に満ちた世間の目、そして誰かに面倒を見てもらわなければならない知的障害者の実態を描く。子供の心のまま大人になった障害者と深く険しい家族の自己犠牲が、躍動感あふれる映像とセンチメンタルな音楽に彩られ、涙腺を刺激してやまない。

知的障害者自立支援ホームに、かつて売れっ子漫画家だったいっぽんが、知的障害の娘・まこを住み込みで介護するために入居してくる。まこはホームの仲間・うーやんと意気投合し、ふたりは結婚の約束をする。

見学に来た女高生が「キモい」と言ったり、うーやんの妹・ともちゃんの結婚話などは、知的障害者に対する一般的で率直な反応だ。またホームで働くおばさんはいつも“きれいごと”に染まりかけた空気に水を差し、顔なじみの警官までがネガティブな情報を語る。ホーム内の閉じた世界ならば理想に逃避できるだろう。しかし、ホームの経営や地域社会との関わりを考えると、善意に頼っているだけではとても運営できない現実。それら福祉政策の限界やシリアスな問題点を、劇団芝居風のテンポの良いコミカルなやり取りのなかで浮かび上がらせる展開は洗練されている。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

幸せに暮らしていくはずのまこがなぜ死んだのか、やがてプロローグで投げかけられた疑問が徐々に解き明かされていく。自立できない子を授かった親の苦悩、それは子より先には死ねないということ。せめて人間的に過ごさせてやりたい、そんな些細な願いさえ届かったいっぽんの哀しみが大いに切なさを誘った。。。

オススメ度 ★★★*

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