こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ある海辺の詩人 -小さなヴェニスで-

otello2013-03-21

ある海辺の詩人 -小さなヴェニスで- IO SONO LI

監督 アンドレア・セグレ
出演 チャオ・タオ/ラデ・シェルベッジア/マルコ・パオリーニ/ロベルト・チトラン/ジュゼッペ・バッティストン
ナンバー 65
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

借金返済のために単調で低賃金の仕事に就く外国人労働者にとっては、古い町並みや美しいラグーナ、峻険なアルプスの山並みも寒々とした別世界。色彩を抑えた映像は、わずかな希望にすがりつつ苦難を受け入れるヒロインの心を象徴する。そんな暮らしの中で見つけた、ほっとひととき休まる瞬間。映画はベネチア近郊の漁港を舞台に、中国人女性と地元漁師の交流を描く。だが、男女の交際はすぐに話題となる環境の下で彼女は苦渋の決断を迫られる。勤勉な労働力を提供しているうちは存在を黙認されているが決して仲間や友人としては認めてもらえない現実の中、他者への思いやりすら禁じられる。その感情を抑制した静謐が切なさで胸を満たす。

出稼ぎ中国人のリーはラグーナの港町のカフェバーで働き始める。常連客と言葉を交わすうち、ユーゴ出身で“詩人”とあだ名されるベーピと親しくなり、ふたりは逢瀬を重ねるが、やがて心無い噂が流れ始める。

息子を故郷に残してきたリーと家族がいないベーピ。孤独を埋めあうかのようにふたりは寄り添う。屈原由来の灯明をリーが水に浮かべるのは、自らの叶わなかった願いを葬送して気持ちに整理をつけているのだろう。意味をよく知らないベーピが浸水したカフェの床にろうそくを浮かせるシーンは、優しさの中にも儚さが入り混じり、小さな幸せをかみしめる人生も悪くないと思わせる。時折挿入される、悠久の時を体内に取り込む太極拳のようなゆったりとした物語の展開も、心地よい余韻を与えてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

しかし、町の人々はリーの行為を“財産目当て”と勘繰りベーピに余計な忠告をし、リーのボスも中国人の評判が下がるのを恐れてリーにベーピとの会話を禁止する。愛し合っているわけではないが、お互いの素性や現状を超えて理解しあえる関係。ただでさえ経済的な侵略を受けているとイタリア人にとらえられている中国人の慎み深い生き方が印象的な作品だった。

オススメ度 ★★★

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