愛さえあれば DEN SKALDEDE FRISOR
監督 スサンネ・ビア
出演 ピアース・ブロスナン/トリーヌ・ディルホム/キム・ボドゥニア
ナンバー 72
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
平穏な今の暮らしを続けたいから我慢する。迷惑だけれど親族だからはっきりと断れない。父に立派になったと思ってほしいから美しい女性と結婚する。周囲の期待を裏切りたくないからハッピーな花嫁を演じる。様々な理由から本音を抑え込み、己に対して嘘をついている人々。本当は深く傷ついていたり、違和感を覚えているのに、鈍感なふりをしてやり過ごそうとしている。そんな彼らが飲み食べ踊るうちに、偽りの仮面を脱ぎ捨てていく。物語は若いふたりの結婚式に集った親族・友人たちが社会での肩書が通用しないしがらみのない関係の中で感情に素直になり、自分の人生を見つけていく過程をコミカルに描く。それはまるで南欧の海と風と太陽に、幸せの魔法をかけられているかのようだった。
娘の結婚式のためにデンマークから南イタリア・ソレントに向うイーダは、空港で新郎の父・フィリップと交通事故を起こす。イーダはフィリップと道中共にするが、お互いの態度が気に食わず、口げんかを繰り返す。
乳がん手術直後に夫に浮気を知ったイーダは心に鎧をまとい、夫の悪口を言う息子を宥めたりとあくまで平静を装う。一方のフィリップも妻に先立たれた哀しみを紛らわせるためにビジネスに没頭し、結婚式場の別荘でもスマホを手放せない。だが、フィリップはイーダが泳いでいるところに遭遇、文字通りフィリップに裸をさらしたイーダは彼の優しさに触れ、フィリップもまた彼女の素の姿に胸をときめかせる。そして、大人の余裕をみせようとしつつも好意を小出しにして相手の出方を見る。長い間恋を忘れていたふたりが、ぎこちない駆け引きのなかにも、ストレートに思いを伝えようとする表情や仕草がもどかしくも微笑ましい。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
彼らの他にもイーダの息子、夫と浮気相手、フィリップの義妹と姪などそれぞれに問題を抱えた人々がソレントの別荘という特別な場所で騒動を巻き起こし、ふたりの仲はなかなか進展しない。それでも、冴えないおばさんだったイーダが赤いドレスに身を包み洗練されていく様子は、恋こそ女にとって最高のアンチエイジングであると教えてくれる。
オススメ度 ★★★