こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

25年目の弦楽四重奏

otello2013-05-04

25年目の弦楽四重奏 A LATE QUARTET

監督 ヤーロン・ジルバーマン
出演 フィリップ・シーモア・ホフマン/ クリストファー・ウォーケン/キャサリン・キーナー/マーク・イヴァニール/イモージェン・プーツ
ナンバー 106
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

もちろんお互いの技量や感性には敬意をもって接してきた。優れている点もあれば敵わない点があるのも認める。その分、自己主張は控えめにしている。結成四半世紀の弦楽四重奏団、メンバーたちは和が乱れるのを恐れずっと気を遣いあっている。物語は楽団の長老が引退を口にしたことから起きる、様々な出来事を追う。長年たまっていた不満、抑制してきた情熱、置き去りにされた愛。そういった難題が同時に噴出し、薄皮一枚で繋がっていた調和が崩れていく。アーティストである前に一人の人間、楽器のようにはコントロールできない己の内なる声に翻弄される姿は、滑稽ゆえに愛おしい。

最年長のチェロ奏者・ピーターがパーキンソン病を患い、代役を入団させると宣言。すると第2バイオリン奏者のロバートが第1バイオリンも担当したいと言い出し、彼の妻でビオラ奏者のジュリエットに否定される。

第1バイオリン奏者・ダニエルの才能に敬服しつつも“第2”で居続けるのに倦んだロバート。ジョギング仲間に「いつやるか? 今でしょ」的なアドバイスを受けてすっかりやる気になっている。一方、音楽一筋のダニエルはロバートとジュリエットの娘・アレキサンドラと付き合い始める。ジュリエットはアレキサンドラに母親失格と責められる。25年間完璧だったはずの人間関係が一気に綻びる過程は、まさに感情と芸術の相克。あまりに卑近な葛藤に共感を呼びつつも、不器用な対応しかできない彼らに失笑を漏らしてしまう。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて満足な練習もできないままピーターの引退公演を迎える。ベートーベン末期の弦楽四重奏曲、本来は4人の息がぴたりと合わないと演奏できない難曲に挑む。以前の美しさは欠けてしまった、だが、抱えきれないほどの喜怒哀楽がメロディに乗って浮き彫りにされ、より豊かな表現に昇華されている。心の持ち方でいかようにも変化する、これぞ人生そのものといった深い味わいに満ちていた。

オススメ度 ★★★*

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