こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

樹海のふたり

otello2013-05-10

樹海のふたり

監督 山口秀矢
出演 板倉俊之/堤下敦/きたろう/遠藤久美子/烏丸せつこ
ナンバー 110
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

地表に張り出した太い木の根、岩にこびりついた苔、空を覆う枝葉、湿ったひんやりとした空気。神秘的な雰囲気は死を望む者をいざなう“あちらの世界”への入り口のよう。物語は、富士山麓に広がる樹海をさまよう人々を張り込む2人のTVディレクターを通じ、“生きる”とはなにか、答えを模索する。目印なく迷い込むと出口がわからなくなる、やみくもに歩いても堂々巡り、そんな樹海は仕事と私生活に苦悩する2人の日常の象徴。覚悟して樹海に入った人を助けるのはもっと苦しめているだけではないか、ズケズケと他人の事情に踏み込みつつもカメラを回す2人の葛藤が、プロとは何かを教えてくれる。“命を大切にしよう”などというおためごかしがないところに好感が持てた。

クビ寸前のディレクター・竹内と阿部は、富士樹海の自殺志願者を直撃する企画が通り、現地におもむく。そこで樹海で眠っている男に声をかけ、思いとどませた一部始終を記録した番組は高視聴率をとり、2人は続編の取材が認められる。

何度も樹海に通う一方で、自閉症児を妻に押し付けている竹内、認知症の父の介護ができない阿部。忙しさのあまりともにプライベートの歯車が狂い始める。映画は、ギャラは出来高払いの下請けディレクターの悲哀や家庭を省みない一面を挿入し、彼らもまた日々もがく人間のひとりである事実を描きこむ。他人の命を救っても自分の家族すら幸せにできない相剋が人物像に深みを与えていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後も取材を続ける2人だが、若い女の自殺の兆候を見逃がし、2人はこれまで積み重ねた実績にまで虚しさを覚え始める。さらにカネで魂を買おうとするTV局や自己チューな新人AD、平気で嘘をつく人々と関わるうちに、人間そのものに対する不信感を持ち始める。それでも、竹内は自殺を止めさせた少年に座右の銘を問われ「出たとこ任せ」と応じ、くよくよ悩むより目の前のやるべき課題をこなすのが己の生き方と気づく。負けずに生きていくことこそ人生の真実、彼の奮闘はそう訴えているようだった。

オススメ度 ★★★

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