こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

コンプライアンス 服従の心理

otello2013-05-11

コンプライアンス 服従の心理 COMPLIANCE

監督 クレイグ・ゾベル
出演 アン・ダウド/ドリーマ・ウォーカー/パット・ヒーリー/ビル・キャンプ
ナンバー 112
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

厄介ごとにかかわりたくない、大騒ぎせず穏便に済ませたい、逆らったら何をされるかわからない・・・。平穏で平凡な日常に突如乱入してきた“権力”を持つフリをした男は、言葉巧みに人々の心の隙間に踏み込み自在に操っていく。物語は若い女性店員が男の声のみならず上司や同僚に追い詰められ、屈辱を味あわされていく過程をリアルに再現する。一本の電話、警察官と名乗られただけで従業員たちは警戒し、怯え、やがて従順になっていく様子はまるで催眠術にかけられているよう。情報を遮断された状況での思い込みの恐ろしさ、事なかれ主義、姿の見えない高圧的な相手にへの恐怖、映画はそうした人間の弱さもろさを鋭く突いていく。

週末のバーガー店、慌ただしいなかダニエルズ捜査官から店長のサンドラ宛に電話が入り、従業員に窃盗容疑がかかっていると告げられる。サンドラは接客係のベッキーにあたりをつけ、ダニエルズに言われるままベッキーを事務所に監禁する。

もともとサンドラはベッキーを快く思っていなかったのだろう、ダニエルズの誘導尋問にたやすく引っかかる。他の従業員に事情を説明するときもベッキーが客のカネを盗んだと断定している。一方で開店前のトラブルで気が立っていたとはいえ、サンドラは事件を本部に確認しようともしない。そんなベッキーに対する彼女の先入観もダニエルズを増長させる。さらにベッキー自身も犯歴こそないが、品行方正に生きてきたわけではない。そして、入れ代わり立ち代わりベッキーの監視を命じられた関係者もねっとりと絡みつくダニエルズの話術に瑕疵をさらけ出していく。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

すべてはダニエルズの悪質ないたずら。観客はスクリーン上で起きていることに強烈な嫌悪感を抱きつつも、気づかないサンドラに反感を覚え、従業員の逡巡に共感しながら苛立つ。いわれなき侮辱になすすべのないベッキーには深く同情するが、助けてやれないもどかしさに不快感が募っていく。卓越したアイデアひとつでこれほどまでに洗練されたサイコサスペンスが生まれる、低予算映画のお手本となる作品だった。

オススメ度 ★★★★

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