こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

100回泣くこと

otello2013-06-20

100回泣くこと

監督 廣木隆一
出演 大倉忠義/桐谷美玲/ともさかりえ/波瑠/忍成修吾/大杉漣
ナンバー 99
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

本当は打ち明けたいのに、心地よい嘘に浸っていたい。気持ちを確かめたいけれど、結果を恐れてしまう。そして、事実が明らかになった時、己を受け止めてもらえるか自信がない。愛し合っているはずのふたり、記憶の空白を埋めようともがく彼を、彼女は秘密を抱えたまま見守ろうとする。映画は、虚構で固めた世界を守りつつ病魔と闘うヒロインを通じて、思いを正直に伝えらえない苦悩と葛藤を描く。キレイな思い出だけを残したい彼女と、あらゆる事情を知ろうとする彼。誤解されたまま放置された過去は、逃げたのではなく愛を届けようとしていたという真実が涙を誘う。

友人の結婚式で出会った藤井と佳美。かつて恋人同士だったが、バイク事故で頭を強打した藤井は佳美を覚えていない。佳美はそれを伏せたまま藤井と付き合いだし、新たにやり直そうとする。

藤井に声をかけられた時の佳美の驚き、もう一度藤井の心に触れられる期待と、同じ悲しみを味わうかもしれない不安が同時に浮かび、ひきつった笑顔に下で複雑な感情が交差する。一方、無邪気に佳美とのデートを楽しんでいる藤井も、やがて彼女の瞳の奥に何か隠されているのに気づいていく。自分が知るべきことを誰も教えてくれない。バイク、愛犬、古い手紙…手がかりをもとに消えた1年間を取り戻そうとするうちに、徐々に情景を思い出す。そんな、恋の喜びが充満した輝かしい瞬間なのにどこか暗い影を落としている映像は、少し引いた視点から彼らを見つめるような覚めたトーンでふたりの運命を暗示していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

すべてを悟った藤井は佳美の望みを叶えるために夜の街にバイクを走らせる。残された時間はあとわずか、その中で藤井は精一杯佳美を愛してあげたい、佳美もまた一度失った藤井と「死がふたりを分かつまで一緒にいる」と願う。記憶喪失と末期がん、ベタな設定ながら、結ばれなかったからこそ美しいと感じさせる、みずみずしさと切なさに満ちた作品だった。

オススメ度 ★★*

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