こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

風立ちぬ

otello2013-07-22

風立ちぬ

監督 宮崎駿
出演
ナンバー 178
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

自作の飛行機を操り大空を自在に駆け巡る。視力が弱いゆえにその目標を諦めた少年は設計士になる決意をする。より速くより遠く飛ぶ飛行機に必要なものは何か、大人になった主人公はひたすら研究に没頭する。映画は、1920〜30年代、先進国より20年遅れていた日本の航空工学を最先端に導いた主人公の青春の日々を追う。エリートにのみ許された海外留学、まだ日本中が貧しい中で理系インテリとして享受した上流の暮らし、運命的な出会いと再会そしてはかない愛。軍国主義と戦争の足音を通奏低音に、それらのエピソードが淡々と積み重ねられる。

大学卒業後、メーカーの航空機設計班に配属された二郎はドイツに留学、そこで目にした彼我の圧倒的なテクノロジーの差に愕然としながらも、新たな闘志を燃やす。やがて海軍から発注された新型戦闘機の開発リーダーを任される。

技術者の矜持から喜怒哀楽に流されまいと誓っているのか、二郎は決して言葉に抑揚を込めない。貧富の格差に怒り、ドイツの工業力に驚き、恋愛に心ときめかせるが、まるで胸の内を悟らせないかのような単調な話し方をする。それは自分の仕事が、結局は“殺戮と破壊”のためにしか使われることがないと理解しているからなのだ。風を浴び雲を切り裂き鳥の視点を体感したい、そんな己の夢を実現させるほど多くの人の命を奪っていく。素人声優によるセリフの棒読みが、彼の自己矛盾を見事に表現していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

それでも二郎の人間的成長はきちんと描きこむべきではなかったか。ドイツ留学や帰路で学んだはずの欧米の最新技術がどう生かされたかはスルーし、部品の軽量化と耐久性の向上にどんな苦労をしたかにも深く切り込まない。何より、最愛の人・奈穂子との短かった結婚生活においても枯れたリアリズムに徹する。実在の人物をモデルにしている以上、事実や人物像を誇張できないのはわかる。だが、劇的な盛り上がりが一切ないのは物足りなさを通り越して退屈。せめて伝説のイタリア人設計士とのやり取りくらい正直な感情を発露させてほしかった。どうせ空想の中なのだから。。。

オススメ度 ★★

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