クロワッサンで朝食を UNE ESTONIENNE A PARIS
監督 イルマル・ラーグ
出演 ジャンヌ・モロー/ライネ・マギ/パトリック・ピノー
ナンバー 181
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
ワガママで辛辣で意地悪、親しい友人は一人もいない。体が弱っていくことに我慢ならないのか、ますます意固地になっている。唯一接触のある年下の愛人がよこした家政婦にも悪態をつく。関わる人すべてに見下したような冷たい視線を投げ不愉快さを隠さない老婆をジャンヌ・モローが好演。彼女の憎まれ口の数々はもはやかわいらしく思えるほどで、「グラン・トリノ」でC・イーストウッドが演じた主人公に匹敵する偏屈老人ぶりだ。物語は気難しいヒロインと彼女の面倒を見るために派遣された家政婦が、お互いの立場を乗り越えて孤独を癒していく過程を描く。エッフェル塔や凱旋門よりパリを実感できるのは、実はクロワッサンだとこの映画は教えてくれる。
離婚し子供とも離れて暮らすアンヌは、パリに住むフリーダの世話係に雇われる。朝食に文句をつけ、薬棚が開かないと言ってはゴネ、ことあるごとにアンヌを困らせるが、アンヌがおいしいクロワッサンを買ってきたのを機に心を開き始める。
フリーダもアンヌと同じくエストニア出身だが、フランス語しか話そうとしない。彼女にとって“パリのエストニア人”だった人生は忘れてしまいたい記憶。だからエストニア語を話すアンヌを嫌ったのだろう。しかしアンヌがフランス語を話せると知ると少しずつ態度が変わり、“パリジェンヌ”としての振る舞い方を教授する。アンヌに洗練されたコートを贈ったのはその証。そして死ぬまで“女”であり続けるフリーダは己の生き方をアンヌに伝えようとする。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
だが、アンヌが気を利かせてアパートに呼んだ旧知のエストニア人たちも、フリーダは早々に追い返してしまう。不快な思いをさせられた過去は決して水に流さず、今更和解するつもりはない。それでも、自分を気遣ってくれたアンヌに対しては少しだけ優しくなる。結局、フリーダも淋しいのだ。でも胸の内を他人に見透かされ同情されるのがいちばん嫌。そんなフリーダの強がりが愛おしくなる作品だった。
オススメ度 ★★★