こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

カイロ・タイム 

otello2013-08-06

カイロ・タイム CAIRO TIME

監督 ルバ・ナッダ
出演 パトリシア・クラークソン/アレグザンダー・シッディグ/エレナ・アナヤ/トム・マカムズ
ナンバー 155
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

熱暑と渋滞、人混みと喧騒、そこにはイメージしていた悠久の時の流れやエキゾチックな風景はなく、理解できない言語を話す人々が足早に往来を行き交うのみ。さらに女性蔑視の宗教的風潮がヒロインの心に圧し掛かる。映画はガザ地区国連組織で働く夫と休暇を過ごすためにカイロを訪れた妻が味わう失望と孤独、それらを癒して余りある出会いを描く。夫とは違う優しさ、オフィスでは体験できない充足感、抑制された俳優たちの演技の中、リリカルな音楽が彼女の感情を饒舌に物語る。そして近代的なビル群と歴史的な市場や猥雑とした住居、繁華な街頭と静謐な礼拝堂、奇岩林立する砂漠と調和のとれたピラミッド。その対比で彼女の心境の変化を表現する。

カイロ空港に到着したジュリエットだが、夫のマークは急用で来られず、代わりに元警備係の現地人・タレクを迎えによこす。ホテルにチェックインするが、マークの到着が遅れると連絡が入り、ジュリエットはタレクのカフェに立ち寄る。

街の散策にでたジュリエットは、白人女性の独り歩きに好奇の目を遠慮なくむける男たちに脅える。またストリートチルドレンや学校に通わず絨毯を織る子供たちをレポートしたいという。ここは欧米ではないという自覚に乏しく己の価値観で行動しようとするジュリエット、だが、タレクと時間を共にするうちに、恋人のように扱ってくれる彼の魅力に引き込まれていく。家族との触れ合いを大切にするタレクの生き方に、多忙な仕事の中で自分を見失いがちだったジュリエットは人生の在り方を考えさせられる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

恋なのか、友情なのか、胸に芽生えた思いに戸惑いつつも期待してしまうジュリエット。タレクも独身の寂しさが耐えられなくなってきている。お互いに気持ちは通じあっている、それでも関係を壊すかもしれない言葉を口にする勇気はない。煮え切らないけれどそれ以上踏み込めない、エレベーター越しに交わした熱い視線がふたりの運命を象徴していた。

オススメ度 ★★★

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