こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

少年H

otello2013-08-14

少年H

監督 降旗康男
出演 水谷豊/伊藤蘭/吉岡竜輝/花田優里音/小栗旬/早乙女太一/原田泰造/佐々木蔵之介/國村隼/岸部一徳
ナンバー 199
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

1枚の絵ハガキが証明した日米の国力の差。その事実を知っているとスパイとみなされる世の中で、人々たちは口をつぐんでいく。逆に“大和魂”を妄信する人々は高圧的な態度で市民に目を光らせている。そして、大人たちの振る舞いに不満を覚える少年はつい余計なことを口走り顔の痣を増やしていく。戦争、それは国民の命を奪い、生きている者の自由を奪う。物語は太平洋戦争を挟んだ数年間、神戸で思春期を過ごした主人公の成長を描く。日本が間違った方向に進んでいると考えながらも良き臣民のフリをするしたたかな父親が、実は様々な葛藤を抱えている。そんな小市民的な男を水谷豊が抑制のきいた表情で演じていた。

洋装店を営む父・盛夫と母・敏子、妹と暮らす小学生の肇は敏子のハイカラ教育にうんざりしている。だが、盛夫の仕事に付き添って外国人屋敷に行くのは大好きで、子供のころから西洋の風を受けて育っていた。その後、対米開戦の機運が高まると外国人たちは次々と神戸を去っていく。

外国人顧客を相手にしても挨拶以外は日本語で済まし、それでもきちんと意図は伝わっている盛夫は“人と人、国や言葉は関係ない”と肇に教える。一方で軍国主義に走る日本人とは、言葉は通じても思いは届かない。肇が中学に進学するころには戦況が悪化、理性より無謀な精神論が幅を利かせていく。戦争に反対したいができない風潮の中、少しでも良心に従おうとする両親の姿に肇は人生を学んでいく。ノスタルジックな雰囲気の映像に悲惨さはないが、戦争によって人の心は蝕まれていくという真実は訴えていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

外国人と交流がありキリスト教徒であるだけで白い目で見られた時代、肇が育った環境はかなり特殊だっただろう。進歩的な父と信仰心の篤い母のおかげで、上質な服を着て絵画を嗜む肇は特権階級の子息のような雰囲気さえまとっている。彼を理解する友人や保護する大人も少なくない。あの時代、日本人すべてが軍国主義に染まっていたのではない、そう思うだけで希望が持てる作品だった。

オススメ度 ★★*

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