こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

四十九日のレシピ

otello2013-08-24

四十九日のレシピ

監督 タナダユキ
出演 永作博美/石橋蓮司/岡田将生/二階堂ふみ/原田泰造/淡路恵子
ナンバー 205
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

基本的な家事のマニュアルと、シンプルだが胸にしみる料理のレシピ。それらを絵手紙にしたファイルだけを遺して女は先立った。元気なうちは気に留めなかった彼女の気持ちを、年老いた男は初めて知ろうとする。一方で夫の不倫に苦しみ別れる決意をした彼らの娘は、女が親身になった若者たちに支えられて明るさを取り戻していく。たそがれた風景に溶け込んだ川辺の一軒家、久しぶりに再会した父と娘は、妻であり母であった女が関わった「人」という財産に救われ、人生のどん底から立ち直っていく。物語は、他人の心配ばかりしてきた女の最期の願いを叶えるために奔走する父娘の姿を通じ、人と人の絆は血ではない、心のつながりなのだと訴える。

離婚届を残して実家に帰った百合子は、奇抜な服装の娘・イモに世話をされている父・良平を見て仰天する。さらに日系ブラジル人青年・ハルが現れ、亡母・乙美の遺言「四十九日の大宴会」の準備に入る。イモもハルも乙美に優しくされた記憶を大切にしていた。

不妊症が原因で夫とうまくいかなかった百合子は、継母だった乙美の思いを少しずつ理解していく。良平との間に子ができなかった乙美もまた百合子と同じ体質で、だからこそ親の情に恵まれない子供たちに手を差し伸べ、わが子のように愛したのだろう。乙美の生涯を年表にしようとした百合子は、彼女が外でどんな活動をしていたかをほとんど知らなかった事実に気づき、その空白を埋めようとする。それは百合子にとっても己を見妻直す作業、そんな彼女の再生の過程を永作博美が繊細な感情表現で演じ切る。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

映画は、人を包み込むようなやわらかな空気に満ち溢れている。イモのテンションの高さも、ハルの押しつけがましい親切も、すべては問題を抱えていた彼らがきちんと暮らしていけるように乙美が努力したから。誰かの踏み台となる生き方を貫いたからこそ乙美の思い出は人々の脳裏に焼き付いている。あふれ出すような感謝が、あたたかい気分にさせてくれる作品だった。

オススメ度 ★★★

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