もうひとりの息子 Le fils de l'autre
監督 ロレーヌ・レヴィ
出演 エマニュエル・ドゥヴォス/パスカル・エルベ/ジュール・シトリュク/メディ・デビ/カリファ・ナトゥール/アリン・オマリ
ナンバー 209
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
自分はいったい何者なのか。体に流れているのは異教徒の血、でも両親は愛してくれる。過去を取り戻せないのならせめて真実を知りたい、その上で現実を直視するしかない。物語は、戦乱の中で生まれた2人に衝撃の事実が判明したのを機に起きる、本人たちと家族の葛藤を描く。宗教も言葉も異なる本当の父と母、しかも互いに敵対関係にある地域に住んでいる。それでも相手を理解しようと努力すれば受け入れられる。いまだ高い壁に分断され流血の絶えないパレスチナ、映画は2つの家庭の交流を通じて人間の理性と良心を導き、2人の青年に未来を託す。
イスラエル人として育てられたヨセフは病院で取り違えられ、本当はアラブ人の子だと告げられる。留学中のフランスから帰国したパレスチナ人のヤシンも、ユダヤ人の子と知らされる。双方の家族は食事会を開き、2人は心中を打ち明け合う。
初めて親同士で面会した時、母親たちは息子の写真を見せ合ってすぐに打ち解けるのに、父親たちは憮然と席を立つ。過ぎてしまったことよりもこれからを考える女と、名誉を傷つけられたととらえる男。このあたり「そして父になる」の親たちと似たような反応だが、わが子への親の気持ちは国や民族が違っても変わらないのだ。一方、ヨセフとヤシンはわだかまりを呑み込んで友人になっていく。2人は感情を極力抑え、政府は憎悪を煽っても、自分たちは決して暴力を望んでいないと身を持って示す。軍人であるヨセフの父に嫌悪感を抱いていたヤシンの父が通行証を融通してくれた礼に訪れ、2人が無言でコーヒーを飲むシーンが、理性とは怒りや憎しみを抑制する冷静さだと訴える。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
やがて互いの家を行き来するうちに、ヨセフもヤシンもイスラエルとパレスチナ自治区の格差に強烈な違和感を覚えていく。彼らの血と思いが対立を終わらせるきっかけになるかもしれない、そんな希望を抱かせる作品だった。
オススメ度 ★★★*