こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

子宮に沈める

otello2013-09-07

子宮に沈める

監督 緒方貴臣
出演 伊澤恵美子/土屋希乃/土屋瑛輝/辰巳蒼生/仁科百華
ナンバー 219
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

あれほど懐いてくれた娘が、手がかかるけれどかわいかった息子が、いつの間にか自分の足をつかみ泥沼に引きずりこむ存在に思えてくる。嫌いになったわけじゃない、でももう疲れた。親としての責任があるのは分かっている、でも私にも人生を楽しむ権利がある。そんな思いで頭がいっぱいになった若い母親は、子供たちを部屋に閉じ込めて家を出る。映画は2人の子を持つシングルマザーが奮闘し、挫折し、心が折れ、正常な判断ができなくなっていく過程を静かに見つめる。固定したカメラから対象が時折フレームの外にはみ出してしまう。だが、マイクに拾われた音で何が起きているのか想像がつく。その上で、うんざりするほどの長回しのカットが、救いのない物語にさらなる重苦しい空気をもたらす。

幸せな家庭を守ろうと努力していた由紀子だが、不誠実な夫と別れ2人の幼子とアパートで暮らし始める。しかし、仕事は長続きせず、風俗に転職、やがてアパートに男を連れ込むようになる。

きれいに掃除されていた床にホコリが積もりゴミ袋がたまっていく。服装が派手になっていくとともに生活は乱れ、由紀子は子供たちの面倒を見なくなっていく。ついに大量のチャーハンを作り置きして家出する由紀子。彼女の愛を疑わず、ずっと待ち続ける幼い長女。あえて感情を抑制し、レンズを向けることに徹した冷徹な映像は、何の期待も抱かせず子供たちが衰弱していく様子をとらえていく。まだ幼い長女は泣きもせず、怒りもしない、ただなぜママが帰ってこないのかわからず戸惑っているだけ。健気な長女の姿が、胸をえぐる鋭さで絶望を伝えてくる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

作り手は母親を擁護も弾劾もしない。説明も音楽も一切排したシーンの数々は圧倒的なリアリティとなって、この悲劇が事故や悪意の結果ではなくごくありふれた日常の延長線上にあると訴える。そして、どうして社会は彼らを見落としたのか、これは社会全体で受け止めるべき課題ではないかと問いかける。

オススメ度 ★★★*

↓公式サイト↓