こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

許されざる者

otello2013-09-16

許されざる者

監督 李相日
出演 渡辺謙/柄本明/柳楽優弥/忽那汐里/佐藤浩市
ナンバー 225
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

馬には振り落とされる。刀は錆びている。ぶちのめされて顔を切りつけられる。何よりも死を恐れている。伝説の人斬りと呼ばれた男もすでに老い、日々の暮らしに窮するただの開拓農民。だが、作物が実らず子供たちに満足な食料を与えられないほどの貧しさに追い詰められたとき、亡き妻との約束を破って再び武器を手にする。その過程で、主人公たちが地平線まで広がる荒涼とした大地を渡り、森や小川沿いの道なき道をひたすら進む壮大なスケールの映像に圧倒される。そこに、弱き者、虐げられた者、すべてを失った者、無様でみじめで女々しいけれど人間としての誇りまで捨てたわけではない人々の魂が慟哭となって共鳴し、巨大な感情のうねりとなってスクリーンにあふれ出す。

北海道の辺境の街で女郎が農民に顔を切られるが、街を牛耳る警察署長の大石は穏便に事を収めようとする。復讐を誓った女郎仲間たちは犯人に懸賞をかけ、かつての戦友・金吾に誘われた元反政府派の十兵衛も街に向かって旅立つ。

女郎の顔を切った男は賠償し、彼の相棒は悔いて詫びを入れる。強権的な大石は賞金稼ぎから街の秩序を守ろうとしている。女郎屋の主人も当時の価値観に照らせばまっとうに商売している。ある意味、この街に死に値する者は誰もいない。一方で、もう人を殺めたくないと願っていた十兵衛がカネ目当てに街にやってくる。煮え切らない態度を取り続け、最後まで迷いを吹っ切れない十兵衛の表情に、“生きる”という業を背負った人間の大いなる苦悩が凝縮されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

十兵衛たちは賞金首の2人を仕留めるが、金吾が捕えられた上、大石によって拷問死したことから十兵衛は怒りを爆発させる。ところがその場面でも十兵衛は阿修羅のごとく暴れまわるのではなく、傷つき血を流し罪の重さに押しつぶされそうになりながら大石の部下を倒していく。それは十兵衛の、強さであり、弱さでもある。そして人間の欲望のメタファーともいえる娼館に立った炎には、そこに己の魂を捨てざるを得なかった十兵衛の、運命から逃れられない哀しみが象徴されていた。。。

オススメ度 ★★*

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