こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

鑑定士と顔のない依頼人

otello2013-09-21

鑑定士と顔のない依頼人 THE BEST OFFER

監督 ジュゼッペ・トルナトーレ
出演 ジェフリー・ラッシュ/ジム・スタージェス/シルヴィア・ホーク/ドナルド・サザーランド
ナンバー 228
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

秘密の部屋にコレクションされた数十人の美女たちは、アートに人生を捧げてきた男の唯一の安らぎであり誇りでもある。彼は女たちをこよなく愛している、だが不当な手段で連れてこられた彼女たちは「ここから出して」と声にならない叫びを発している。物語は、目利きとして知られる美術鑑定士が、ミステリアスな女から骨董品の査定依頼を受けたたのを機に、禁断の愛に絡め取られていく過程を描く。運命の女なのか、魔性の女なのか。極端に潔癖症で他人との深い交流を避けてきた主人公が、初めて興味を持った“生身の女”に抱いた好意。翻弄されつつ逸る気持ちを抑えられない、老いらくの恋に身を焦がす彼の姿に人間の愚かさが凝縮され、切なさの中にも滑稽さが宿る。

オークションを仕切るヴァージルは、広場恐怖症の女・クレアから骨董品の鑑定を頼まれる。壁越しにクレアと会話を続けていたヴァージルは、好奇心からクレアを盗み見し、彼女の美しい肢体に心を奪われる。

夕食は高級レストランでひとり食べる、その時も手袋を外さない。バースデーケーキがサービスで供されても祝ってくれる相手がいない寂しさ。高級品や洗練されたサービスに囲まれているが他者とは必要以上に接近しない、それは彼が望んだ日常とはいえ、情熱を注ぐ対象がモノ言わぬ婦人肖像画のみという彼の孤独を強調する。ところが、わがままなクレアに振り回されつつも、自分と同類の彼女に親近感を覚えていくヴァージル。いつしか骨董の鑑定ではなく、ヴァージルはクレアにのめり込んでいく。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

映画は、人型機械と修理屋、不正落札共犯者、謎の記憶女などを絡めながら、ヴァージルとクレアの行方を見守る。そしてクレアへの思いが臨界点に達したとき、張り巡らされた伏線が一気に収斂し、閉じ込められた女(たち)が解放され、ヴァージルもまた自らを縛っていたルールから自由になる。贋作の中にも本物はある、クレアと肌を重ねた時間だけが彼にとっての真実だったのだ。

オススメ度 ★★★

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