こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

危険なプロット

otello2013-10-24

危険なプロット Dans la maison

監督 フランソワ・オゾン
出演 ファブリス・ルキーニ/クリスティン・スコット・トーマス/エマニュエル・セニエ/エルンスト・ウンハウワー/ドゥニ・メノーシェ
ナンバー 258
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

他人の秘められた日常を知りたい、そしてそこに隠された真実をあぶりだしたい。かつて作家を志した教師は、立場を忘れて好奇心に負けてしまう。彼の欲望を見抜いた若き作家はその気持ちを巧みに利用し、子弟の関係は逆転していく。映画は高校の国語教師が生徒の文才を伸ばそうとアドバイスするうちに、いつしか彼の紡ぎだす物語に絡め取られていく姿を描く。自分を圧倒的に凌駕する能力を持つ少年に出会ったとき、大人はどう対処すべきか。しかも本人は己の可能性にまだ気づいていない。何をすべきで何をすべきでないか、彼を正しく導けるのか。主人公の逡巡と葛藤は、天才に嫉妬するあらゆる凡人を象徴する。

生徒の提出した駄文にうんざりしていたジェルマンは、クロードが書いた文章に光るものを見出す。文体、ボキャブラリー、表現、先を期待させる展開は申し分なく、ジェルマンはクロードに個人的な指導を申し出る。

クロードの作文の内容は、クラスメートの家庭をのぞき見する視点で描写したもの。悪趣味と注意しつつもジェルマンは、読者を惹きつけてやまない構成に続きを読みたくて仕方がない。彼の妻・ジャンヌも夢中になっていく。いまや連載小説と化した完成度の高い作文に舌を巻きつつも、教師としてのプライドは守りたいジェルマン。だが、クロードはそんな彼の心に更なる言葉の毒を仕込んでいく。美しさと狡猾さを備えたクロードを演じるエルンスト・ウンハウワーの悪魔のような妖しさが、ミステリアスな魅力をスクリーンからふりまいていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

クロードの作文はますますディテールとリアリティと洞察力を増し、禁断の麻薬となってジェルマンを完全に虜にする。やがて妄想と現実が入り混じり、ジェルマンは正常な判断力を失っていく。ところが、すべてを失ってクロードと対等になった時、ジェルマンは忌憚なく自らの意見を言えるようになるのだ。もはや教師と生徒ではない、ひとりの文学愛好者となった彼の表情は、やつれてはいたがすがすがしかった。

オススメ度 ★★★★

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