こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

はじまりは5つ星ホテルから

otello2013-11-16

はじまりは5つ星ホテルから Viaggio sola

監督 マリア・ソーレ・トニャッツィ
出演 マルゲリータ・ブイ/ステファノ・アコルシ
ナンバー 274
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

新品の白手袋をはめ、テーブル、ベッドから窓枠までホコリを調べ、シーツやタオルを念入りにチェックする。さらに従業員のサービスから立ち居振る舞いまで仔細に観察し評価を下していく。彼女はホテルの格付けをする覆面調査員、ほとんど自宅に帰る間もなく世界中の5つ星ホテルを泊り歩いている。映画は、ホテルの採点表を作ることにかけてはプロなのに、欠点だらけの己の生き方は冷静に採点できない中年女が、はじめて自己を省みる姿を描く。誰もが憧れるゴージャスでアクティブな日常、だが若い時は“自由”でも、40歳過ぎても独身のままでは“寂しい女”にしか見えない皮肉。仕事と家族、どちらが大切かをヒロインが教えてくれる。

久しぶりにローマに帰ったイレーヌは、音楽家で夫とふたりの娘に恵まれた妹一家と過ごすが、出張中心の生活をやめられない。ある日、元恋人のアンドレアが出会ったばかりの女を妊娠させたと旅先まで相談に来る。

地に足のついた暮らしをしている妹夫婦やアンドレアに対し、優越感を抱いているイレーヌ。刺激的な人生こそが若々しさを保ち、頑張る力を与えてくれると信じている。言葉や態度の端々からその気持ちがにじみ出ているが、周囲からは実は“イタいおばさん”と思われているのに気づかない。そして、ダサいライフスタイルと思っていた人々が新しい世界を築き上げイレーヌを置き去りにしていく。うらやましがられていたはずが、いつの間にか憐みの目で見られている。そんな、キャリアウーマンのなれの果てのようなイレーヌが切なくも滑稽だ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ところが、ベルリンで意気投合した有名なジェンダー学者が、急死しても報せる人がいないと知ったイレーヌは、明日は我が身と妹やアンドレアとの関係を見直す。もちろん束縛されるのはイヤ、でもどこかで繋がっていたい、絆を今より太くしたいとも願う。でも、やっぱり自分が決めた道は捨てられない、開き直りとも取れる勇気には拍手を送りたくなった。

オススメ度 ★★★*

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