こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

旅人は夢を奏でる

otello2013-11-22

旅人は夢を奏でる Tie pohjoiseen

監督 ミカ・カウリスマキ
出演 ベサ=マッティ・ロイリ/サムリ・エデルマン/ペーテル・フランツェーン
ナンバー 273
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

親の存在など考えもしなかった。妻子がいなくても何とかなった。音楽さえあれば生きていけるはずだった。孤独を独特の哀愁を湛えた旋律に昇華させていたピアニストの前に、突然現れた“実の父”。でっぷりと肥え太り、身なりもみすぼらしい父は、案の定ケチな泥棒でしかない。物語は、ぎこちない再会をした2人が失われた時間を取り戻すかのようにかつての身内を訪ねる過程を描く。父を毛嫌いしながらも渋々運転する男が見知らぬ血縁者とかかわっていくうちに、細いけれど確かな絆を結んでいく。そのとぼけた味わいの映像は、冷たい心にぬくもりを、乾いた人間関係に潤いを与える。糖尿病が遺伝したのか、インスリン注射を打つ相似形の姿が彼らの“血”を象徴する。

3歳で生き別れた息子・ティモにはるばる会いに来たレオ。レオに捨てられたと思っているティモはレオを歓迎していない。翌日クルマとカネを調達したレオは、強引にティモをドライブに連れ出す。

最初の訪問先はティモの異母姉・ミンナ。ティモとミンナはレオの思い出を語り合うが、暗く哀しい話ばかり。それでもミンナはレオが来てくれたのがうれしい。その後も老人ホームにいるレオの母をティモに会せたり、ホテルで女2人組をナンパしたりするが、みなどこか憎めない人柄のレオを笑顔で受け入れていく。レオと過ごすうちに、几帳面で仏頂面のティモも、他人との距離をうまく詰められなかった自分の生き方を見直していく。1人よりも2人でいたほうが、困難は半減され喜びは2倍になり、きっと違った世界が見えてくるとこの作品は教えてくれる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

レオによって妻子の住む家に行く勇気を与えられたティモは、もう一度やり直せないかと妻に頼む。意地を張るより素直になる、そして相手への正直な思いを言葉にする。それはこの贖罪の旅でレオがティモにいちばん伝えたかったこと。妻子に会った瞬間、ティモにとってレオは過去からの亡霊ではなく、未来への道しるべとなる。“家族”こそレオがティモに残した最高の遺産なのだ。

オススメ度 ★★*

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