こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

おじいちゃんの里帰り

otello2013-12-06

おじいちゃんの里帰り
ALMANYA - WILLKOMMEN IN DEUTSCHLAND

監督 ヤセミン・サムデレリ
出演 ヴェダット・エリンチン/ラファエル・コスーリス/ファーリ・オーゲン・ヤルディム
ナンバー 291
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

肉体労働はきつかったけれど、まともな暮らしができる賃金はもらえた。文化の違いに戸惑ったけれど、妻と4人の子供たちは露骨な差別にあうこともなく新天地に馴染み、立派に育った。トルコの片田舎から出稼ぎに来た男と家族の半世紀近くにも及ぶ歴史は必ずしも平坦ではなかったはず。にもかかわらず、つらかった経験も楽しい思い出に変えてしまう彼らのポジティブさは、人生への感謝に満ちている。映画は、晴れて“ドイツ人”となったトルコ移民の男が、長らく留守にしていた故郷に帰ると言い出したのをきっかけに起きる大騒動を描く。トルコ人の魂を失っていない親世代、トルコとドイツのはざまでアイデンティティに悩む子世代、そしてドイツ語しか話せないのにトルコ人の誇りは忘れていない孫世代。3世代のジェネレーションギャップをコミカルにとらえる一方、孫たちが語る祖父母の半生は温かなまなざしに包まれていた。

トルコを離れて約50年、ドイツに帰化したフセインは出身地に買った家を血縁者全員で修繕すると宣言、道中孫娘のチャナンはいとこのチュンクに祖父母と一族の出自を聞かせる。

老境に達したフセインの郷愁は深まるばかり。ところが、自分のルーツをきちんと伝えたいのに、誰も行きたがらない皮肉。物質文明に染まった子供たち以降の世代にとって、もはやトルコは遠い昔話の世界。皆が不平を口にするシーンは、移民2世・3世たちの心情をリアルに再現していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています:選択で表示◆

なんとかトルコに着いた一行は小型バスを借りて村までの長い道のりを走る。独立した子供たちは言い争いも多かったのに、フセインを故郷の土に還すという目的で一致する。きっとこの旅はフセインが一族をもう一度結束させるために仕組んだのだろう。仲の悪かった長男と次男が子供時代と同様に、一枚の毛布を分け合う場面が家族の絆の再構築を象徴し、フセインの思いは孫が受け継ぐ。脈々とした命の営みが胸を打つ作品だった。

オススメ度 ★★★

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