こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

東京難民

otello2013-12-14

東京難民

監督 佐々部清
出演 中村蒼/大塚千弘/青柳翔/山本美月/中尾明慶
ナンバー 297
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

今夜帰る家がない。頼れる友人はいない。所持金も尽きかけている。突然“大学生”の身分を奪われた若者は社会の底辺に放り出され、何物にも所属していない孤独と世間の偏見と戦いつつ様々な仕事を経験していく。そこで待ち受けるのは弱い立場の人間は徹底的に搾取される蟻地獄。映画はセーフティネットから漏れた主人公が、どれほど速く転落していくかを描く。一度、負け組に落ちると這い上がろうとする気も失せ、むしろせっかく確保した寝泊まりと食事ができる場所にしがみつこうとする。雇い主たちは彼らの気持ちに付け込み、ピンハネする。そんな貧困のカラクリがリアルに再現される。

父の失踪で学費も仕送りも止まった修は、大学を除籍になりアパートも追い出される。ネットカフェで夜を過ごすうちにまとまったカネを得るが、ホストクラブで巻き上げられたうえ借金まで作ってしまい、修はホストとして働き始める。

売上がすべての世界で、修はなじみ客となった茜に対してカネを使いすぎないように気遣い、先輩ホスト・順矢の借金を断れなかったりする。財産や過去の人間関係を失っても良心は大切にする修。己のことで精いっぱいのはずなのに困った他人を慮る優しさが、日本人の倫理観の高さを象徴している。一方で、あえて悲惨さを強調せず、淡々と修に現実を受け入れさせる演出は、絶望に追い込まない程度に賃金を与えて低所得の労働者を使い捨てにする“生かさず殺さず”的な雇う側の理論に沿っているようだ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

さらに土工やホームレスといった、今日1日を生き延びるために必死で働く人々と交流するうちに、修にはぬるま湯に浸かっていた学生生活では決して得られなかった“友達”ができる。一文無しになったがゆえに、自分自身を見つめなおし、人の情けを知った上で順矢や茜とのけじめをきちんとつける。たった半年間の体験ではあるが、修にとって人生とは何かを考えるきっかけになったのは確かだ。一回り成長した修の姿にわずかな希望が見いだせた。

オススメ度 ★★★

↓公式サイト↓